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会長声明・決議・意見書(2017年度)

精神保健福祉法改正案の廃案を求める会長声明

2017年06月14日更新

 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の改正案は、本年5月17日、参議院本会議において修正のうえ可決され、現在衆議院において審議されている。本改正案の骨子は、措置入院者の退院にあたり、精神障害者支援地域協議会(以下「協議会」という。)による協議を経て退院後支援計画(以下「支援計画」という。)を作成するよう、措置を行った都道府県等に義務づけるものである。

 しかし、本改正案は、もともと昨年7月に相模原市の障害者施設で起きた事件の再発防止という趣旨から提出されたものであるが、政府は国会の会期中にこの改正趣旨を撤回した。このことは、本改正案に立法事実がないということを政府が自認したものであり、そもそも改正の合理的理由は存しない。

 にもかかわらず、政府が本改正を進めようとするのは、実質的に撤回した改正趣旨を維持し、「支援計画」を犯罪予防のために活用しようとする意図によるものと考えざるを得ない。「協議会」には本人が参加できる保障はなく、本人不在のまま「支援計画」が策定されるおそれの大きいこと、さらに「協議会」に警察が関与することが予定されているのは、まさにその証左である。このことは精神障害者に対する差別偏見を助長し、精神障害者の福祉の増進という法の趣旨に反した極めて大きな問題である。

 また、本人の意思に反してその退院後の「支援計画」を策定することは、"Nothing About Us Without Us"(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)という障害者権利条約の理念にも真っ向から反するものである。

  加えて、精神障害者が適切な治療を受けるためには、医療者との信頼関係が不可欠であるところ、警察等が「支援計画」に関与して医療者から本人の情報を取得するとすれば、本人のプライバシー侵害の問題もさることながら、精神障害者が医療者を信頼して適切な治療を受けることが困難となり、適切な医療を受ける機会を奪うことになりかねない。

 以上のとおり、本改正案は、精神医療を犯罪予防のために用いようとするもので、精神障害者の社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、精神障害者の福祉の増進を図るという精神保健福祉法の目的(同法第1条)に反するものであるから、その廃案を強く求めるものである。

2017年(平成29年)6月8日
神奈川県弁護士会
会長 延命 政之

 
 
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