2017年05月12日更新
文部科学省は、本年3月31日、指導を行うに当たって留意すべき事項の中に、これまでの国旗にくわえ、国歌に親しむことを盛り込んだ、幼稚園の教育要領の全部を改正する告示を公示した。厚生労働省も、同日、保育所に通う3歳以上の幼児について、保育士等が適切に行う事項の中に、国旗や国歌に親しむことを盛り込んだ、保育所保育指針の全部を改正する告示を公示した。いずれも平成30年4月1日から施行される。
憲法も国際連合憲章も、過去の大戦に対する反省から、平和を維持するために基本的人権と個人の尊厳をうたい、子どもの権利条約は、特に、人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成することを教育の目的に掲げている。学校教育法が、幼稚園における教育の目標として「集団生活を通じて・・・自主、自律及び協同の精神並びに規範意識の芽生えを養うこと」を掲げているのも、これらをふまえて理解すべきである。
すなわち、重要なのは、自立の気持ちが芽生える幼児の人格の尊重であり、これにより、集団生活の中での協力を通じて他者も尊重されるべきことを学び、成長していくことである。
幼児期は、日本の歴史や現状を正確に理解したり、これを批判的に考察したりして、自らの立場を選び取ることのできる段階ではない。それにもかかわらず、幼児に対し、国旗や国歌に親しむことを指導し、「我が国と郷土を愛する態度」を教えることを国の教育要領とすることは、幼児に国旗や国歌、「我が国と郷土を愛する態度」を強制することに他ならず、国が、教育において最も尊重すべき個々の子どもの人格を否定するものであって、憲法13条、19条や子どもの権利条約29条にも反し、子どもの健全な発展そのものを阻害しかねないものである。
保育所において3歳以上の幼児に国旗や国歌に親しませることについても同様であり、「保育を必要とする乳児・幼児を日々保護者の下から通わせて保育を行うことを目的とする」保育所の本来の制度趣旨からも逸脱するものである。
そもそも、「日の丸」「君が代」については国民の間で意見が分かれているが、国旗国歌法制定時には、政府は国民に国旗や国歌を強制するものではないと説明していた。しかし、改正幼稚園教育要領及び改正保育所保育指針は、行事や儀式を通じた幼児に対する国旗や国歌の強制につながる懸念が払しょくできない。
現在の幼稚園、保育所は、様々な国籍・民族出身の子どもたちが共生する場でもある。ここに「我が国と郷土を愛する態度」を持ち込むことは、無用な分断と差別を持ち込むことにもなりかねない。
よって、当会は、改正幼稚園教育要領及び改正保育所保育指針に反対し、その撤回を強く求めるものである。
2017年(平成29年)5月11日 神奈川県弁護士会 会長 延命 政之
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