2016年08月18日更新
1 当会は,2014年7月10日に「神奈川朝鮮学園に通う児童・生徒に対して,他の外国人学校に通う児童・生徒と同様に,補助金を交付することを求める会長声明」を発出し,2015年6月11日に「横浜市及び川崎市に対し,学校法人朝鮮学園に対する,補助金予算の執行停止及び予算の減額の措置を見直すことを求める会長声明」を発出した。 前者は,2012年度をもって打ち切られた神奈川県の学校法人神奈川朝鮮学園(以下,「朝鮮学園」という)に対する年間約6300万円の運営費補助金の代償として,2014年度から開始された外国人学校生徒等支援事業に基づく交付金の適正な実施を求めるものであり,後者は,横浜市に対しては2013年度から凍結されている朝鮮学園に対する補助金予算の執行を求め,川崎市に対しては学園及び保護者に対する学費等補助金の交付額を2012年度以前と同額程度にまで戻すことを求めるものである。 この点,神奈川県は,2014年11月から外国人学校生徒等支援事業に基づく外国人学校児童・生徒学費軽減事業補助金の交付を実施したものの,同交付額は以前より低額にとどまっており,横浜市及び川崎市は,現在も,当会声明が求めた適正な補助金交付を実施していない。
2 かかる状況において,本年3月29日,文部科学省は「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」と題する通知(以下「本通知」という)を発出した。 本通知は,「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が,その教育を重要視し,教育内容,人事及び財政に影響を及ぼしている」との政府認識を前提に,そのような朝鮮学校の運営にかかる特性を考慮した上,朝鮮学校を認可している北海道外1都2府24県知事に対して,「補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施」を求めるとともに,本通知を域内の市区町村関係部局に対しても周知するよう求めるものである。
3 かかる通知は,各地方自治体により実施されている朝鮮学校への補助金交付を抑制する効果をもたらしかねないものであり,極めて問題があるといわざるを得ない。 そもそも,朝鮮学校に係る補助金交付は,子どもの教育を受ける権利や,教育における機会均等・財政的援助・文化的アイデンティティの尊重等を実質化するために行われている措置であり,そのような補助金交付は,教育上の観点から客観的に判断されるべきものである。核実験や拉致問題等の国家間の問題を,それらについて何の責任もない朝鮮学校の児童・生徒に対する補助金交付と関連づけ、その抑制の理由とすることは,憲法26条,子どもの権利条約28条,29条,30条等に違反するものである。 また,本通知に記載されている政府認識は,朝鮮学校に在籍する児童・生徒については学費の補助金交付に関し別異の取り扱いをしてもよいかのような印象を与えかねないものであり,本年6月3日に公布・施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」で許されないとされている差別的言動を,政府自らが助長するおそれもある。
4 そこで当会は,政府に対し,本通知の撤回を求めるとともに,神奈川県・横浜市・川崎市に対し,本通知にかかわらず,朝鮮学園に通う児童・生徒の教育を受ける権利の保障が実質化されるよう,以前に交付されていた金額と同額程度の適正な補助金を交付するよう求める。
2016年(平成28年)8月17日 神奈川県弁護士会 会長 三浦 修
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