2016年05月25日更新
昨年9月19日に集団的自衛権の行使等を容認する平和安全法制整備法および国際平和支援法(以下あわせて「安全保障関連法」という)が成立し、本年3月29日に施行された。
憲法9条は、1項において戦争放棄を、2項において戦力の不保持及び交戦権の否認を定め、憲法前文は平和的生存権を保障しており、日本国憲法は徹底した恒久平和主義に立っている。安全保障関連法は、集団的自衛権の行使を認め、海外での武力行使を容認するものである。これは、武力行使が許されるのは、わが国に対して直接武力攻撃が発生し、それを排除するために他に取り得る手段がなく、攻撃を排除するための必要最小限度の実力行使をする場合に限られるとする、これまでの長年の政府の憲法解釈に反するものであり、明らかに憲法9条に違反する。 安全保障関連法は、憲法に縛られるはずの国会が、憲法改正手続によらずに憲法を改変したものであって、憲法が国の最高法規であり、憲法は、個人の人権を保障するために国家権力を制限することに意義があるという立憲主義に違反する。
このように、私たちの国は、いま、憲法が無視され、立憲主義が破壊されるという危機的な状況にある。 現在の私たちの国における政府を中心とする憲法改正に関する議論状況をみるに、個人の人権保障のために国家があるという立憲主義の考え方とは逆に、国家が国民に憲法でもって国のありようを示し、国民にはその憲法を尊重する義務があるという内容になっていると解されるものもある。さらに、誰もが生まれながらに等しく基本的人権を持つという、立憲主義を支える普遍的な思想である天賦人権説を疑問視する考え方や、人権の調整原理とされてきた「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変え、人権は平穏な社会生活のためには制限されうる、とする考え方もある。
しかし、これらの考え方は、立憲主義の考え方を否定し、人権保障をないがしろにするものであって、法律家として、到底受け入れることはできず、このような憲法改正を巡る動向には強い危機感を抱かざるをえない。 立憲主義は、まさに人類の英知の到達点であり、私たちの人権保障の砦である。 私たちは、ここに、改めて安全保障関連法の廃止を求めるとともに、立憲主義の理念を否定し、後退させるようないかなる試みに対しても断固反対し、立憲主義の回復をめざすことを決意するものである。
2016(平成28)年5月24日
平成28年度神奈川県弁護士会通常総会
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