2016年02月12日更新
内閣府消費者委員会は,本年1月7日,特定商取引法専門調査会報告書に基づき,「特定商取引法の規律の在り方についての答申」(以下「本答申」という)を行った。
本答申には,指定権利制の廃止や美容医療契約を特定継続的役務提供に追加することなどを始めとして,消費者被害の防止・救済に資する点が盛り込まれており,この点は評価に値する。
他方,当会が昨年7月8日付「特定商取引法に事前拒否者への勧誘を禁止する制度の導入を求める意見書」(以下「当会意見書」という)において,訪問販売及び電話勧誘販売の取引類型について,事前拒否者への勧誘を禁止する制度を導入することを求めた点に関し,本答申が勧誘規制の強化等について委員間で共通認識が形成されるには至らなかったとし,将来において必要が生じた場合には検討を行うことが期待されるとしたことは,極めて遺憾である。当会意見書において指摘したとおり,神奈川県内においても,判断力が十分でない高齢者の訪問販売及び電話勧誘販売による被害が多発しているうえ,高齢者の単独世帯または高齢者のみの世帯が今後さらに増加していく状況にあるなかで,この制度の導入は喫緊の課題であって将来の課題などではない。
本答申は,審議過程において事業者団体関係者だけからヒアリングを行い,事業者側の反対意見を多く掲載している。これに対して,消費者団体や高齢者団体,福祉関係者や弁護士会等のヒアリングは行っていない。これらの団体のなかには,諸外国で運用している制度を精力的に調査して報告書を公表したり,条例でステッカーによる勧誘制限に取り組んでいる団体もある。また,審議過程において,地方議会からも意見が出された。事業者側の意見とは違い,これらの意見などにつき,本答申には何の言及もない。
そもそも,この制度は,勧誘を受けたくないという意向を示した消費者に対しては勧誘を行わないという当然のことを制度化するにすぎず,実際に多くの諸外国で採用されているものである。それにもかかわらず,制度の具体的な検討を行わないまま見送りとしたことは,相当ではない。
したがって,まずは指定権利制の廃止など本答申に盛り込まれた施策の実施のために早急に法令改正を実現すべきである。そのうえで,速やかに事前拒否者への勧誘を禁止する制度について,速やかに具体的検討を開始すべきである。
2016年(平成28年)2月10日 横浜弁護士会 会長 竹森 裕子
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