2016年02月12日更新
内閣府消費者委員会は,本年1月7日,内閣総理大臣に対し,消費者契約法(以下「本法」という)の契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方に関する答申(以下「本答申」という)を行った。
いうまでもなく,本法は,消費者と事業者の間における情報力・交渉力の格差の是正という観点から,消費者契約に関する包括的民事ルールを規定する民法,商法の特別法として,これまで約15年にわたり,消費生活相談の場において紛争解決に活用されるとともに裁判例等も蓄積し,今や実務において消費者の権利実現のために欠かすことのできない法律となっている。そして,この15年のうちにも,インターネットの普及等に伴い消費者が関わる取引は多様化・複雑化し,また,高齢化の進展により一人暮らしや判断力の衰えた高齢者の弱みにつけ込み不必要な契約を締結させる等の事例が多く発生しているのであり,本法の実体法規定を,より「消費者の利益の擁護」(本法第1条)に資する方向で改正することが必要である。ここ神奈川県内においても,平成26年度の消費生活相談件数は7万997件(前年比1.9%増),苦情相談の品目別では「デジタルコンテンツ」に関する相談が1万3929件(前年比27.6%増)で1位,契約当事者の年代別では60歳代が9541件(全体の14.2%),70歳代以上が1万3529件で全体の20.1%を占めているのであり,かかるデータを踏まえても対応が急務であることは明白である。
そのような中,本答申が,不実告知の取消し事由に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を追加すること,過量契約について取消しを認める規定を設けること,取消権の行使期間を1年間に伸長すること等,6つの項目につき速やかに法改正を行うべきとした点は評価に値する。
しかしながら,広告を勧誘とみなす広告規制や,高齢者等合理的判断をなしえない消費者につけ込む契約に取消権を付与すること,平均的な損害の立証責任を事業者に負わせること等,多くの論点が検討課題として先送りされたことについては遺憾の意を禁じえない。
本答申は,不当条項研究会等で基礎的な資料収集,調査作業チームの討議,運用状況検討会における事例の集約を踏まえ,専門調査会において20回を超える議論の末に取りまとめられた報告書に基づくものであり,決してその内容を後退させることなく直ちに法改正を実現されるよう要望する。その上で,積み残しとされた検討課題についても,真に「消費者の利益の擁護」を実現しうる本法の実現に向けた取り組みが速やかに開始されるべきである。
2016年(平成28年)2月10日 横浜弁護士会 会長 竹森 裕子
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