2015年11月18日更新
本年10月23日,大阪高等裁判所第4刑事部は,いわゆる「東住吉事件」に関する再審請求事件について,検察官の即時抗告を棄却して,再審開始を認めた平成24年3月の大阪地方裁判所第15刑事部の決定を維持し,この大阪高裁決定は本年10月29日に確定した。
本件は,平成7年7月22日,大阪市東住吉区内の民家で火災が発生し,同所に居住していた小学6年生の女児が逃げ遅れて亡くなったという事件である。小学生の母親とその内縁の夫が保険金目的で事件を起こしたとして現住建造物等放火,殺人,詐欺未遂の罪で起訴され,平成18年に最高裁で無期懲役の判決が確定した。その後,両名は,自らが犯人ではないことを主張するのみならず,本件が放火事件であること自体も争って平成21年に再審請求を行い,これを認める決定が今般確定したものである。
本件では,捜査機関が想定した犯罪行為と再審請求人両名を結び付ける直接証拠がその自白のみであったところ,請求人両名は捜査官の違法かつ過酷な取調べがあったと主張し,自白の任意性・信用性が争われた。
この点,今回の大阪高裁決定は,請求人両名の自白の内容が,放火の方法という自白の核心部分において科学的見地から不自然・不合理である上,本件火災時の客観的状況ともそぐわないこと,その他にも重要部分に不自然・不合理な点が多く含まれていることに加え,自白の採取過程における問題点も指摘して,自白の証明力に疑問を呈した地裁の決定を維持した。
このように,本件では,これまでの多数の冤罪事件と同様に,自白偏重の捜査の弊害が改めて浮き彫りになったということができる。
また,本件では,放火であるか事故による火災であるかが争点となっており,確定判決では放火であると認定されていたところ,再審請求後になって事故による火災であることを裏付ける証拠(内縁の夫が火災直前に自動車に給油した際,タンクの規定容量を超えてガソリンが注入されていた事実を示す証拠)が検察官から開示されるに至っている。仮に,かかる証拠が確定審の段階で開示・提出されていたならば,火災が本件車両から漏出したガソリンに引火して起きた可能性を否定できず,確定判決のような認定にはならなかったはずであり,検察官による「証拠隠し」が確定判決の事実認定を歪めていたともいえるのである。
以上のように,本件は,従来から指摘されてきた問題点である自白偏重・自白強要の捜査及び検察官による「証拠隠し」から生じた典型的な冤罪事件であり,二度とこのような事件を発生させることがないよう,これらの問題点は一刻も早く是正されるべきである。
当会は,本件について速やかに再審公判が開かれ,請求人両名に対して無罪判決が言い渡されることを求めるとともに,上記の問題点を解決するため,全ての事件における取調べの全過程の可視化及び全面的な証拠開示の早期実現を求めるものである。
2015(平成27)年11月12日
横浜弁護士会
会長 竹森 裕子
このページの先頭へ