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最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明
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最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明
2015年08月14日更新
平成20年7月に施行された改正最低賃金法は,地域別最低賃金を定める際に考慮を要する労働者の生計費について,「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護に係る施策との整合性」を求めている(9条3項)。
これを受け,神奈川地方最低賃金審議会は,平成20年から3年程度で,最低賃金と生活保護との乖離額を解消させるとした。
そして,平成25年10月20日,神奈川県の地域別最低賃金(時給)は,19円引き上げられて868円となり,当初目標よりも3年も遅れて,ようやく,厚労省の試算によれば,生活保護との乖離額が解消した。
しかしながら,この乖離額の解消は,最低賃金が引き上げられたことだけでなく,平成25年8月以降,生活保護基準が切り下げられたことに伴って達せられたものであり,本末転倒であると言わざるを得ない。
また,乖離額が解消したとする前記試算は,比較の際に,生活保護を低く算定し,最低賃金を高く算定しているという問題が存する。
まず,前記試算は,比較対象となる神奈川県内の生活保護の金額について,平均値を用いており,県内でも平均値よりも生活保護水準の高い地域との関係では,生活保護が低く算定されていることになる。
次に,平成26年厚労省毎月勤労統計調査による神奈川県の1か月あたりの所定内実労働時間は126.4時間であり,所定外実労働時間11.8時間を加えても138.2時間に過ぎない。しかし,前記試算は,最低賃金(時給)を1か月あたりの収入に換算する際に,1か月あたりの労働時間を労働基準法の労働時間規制上限の173.8時間と仮定している。このため,最低賃金に基づく1か月あたりの収入が高く算定されている。
そして,前記試算は,生活保護について,12~19歳単身者を前提としており,子どもの養育を行っている世帯との関係では,生活保護が極めて低く算定されている。即ち,平成27年8月からの生活保護基準の更なる切り下げを前提としても,横浜市で40歳の女性が単身で中学生の子ども2人を養育している場合,最低生計費は,生活扶助,住宅扶助,母子加算,児童養育加算,教育扶助,学習支援費を合わせて,1か月あたり218,750円となり,これには公租公課も課せられず,医療を要する場合にはこれとは別途医療扶助も受けられる。これに対し,平成26年10月1日以降の神奈川県地域別最低賃金887円で1か月138.2時間稼働したとして,122,583円にしかならず,ここから,公租公課が控除され,手取金額は更に低額となる。
平成26年総務省労働力調査によれば,非正規労働者が37.3パーセントを占めるのであり,最低賃金は,家計補助的な労働者だけを念頭に置いてはならない。フルタイム働いたとしても,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権を具体化した生活保護水準よりも低い金額しか得られないような最低賃金の設定は,極めて不合理であり,健全な勤労意欲を削ぐものである。
先進諸外国と比較しても,わが国の最低賃金は最も低い水準であり,また,OECD加盟国中,平成22年調査で,相対的貧困率は,16%で6番目に高い。中でも,大人が1人で子どもがいる世帯に限ると,50.8%で加盟国中最悪である。労働政策研究・研修機構の「第3回(2014)子育て世帯全国調査」によれば,当該世帯の親は80%以上が就業しているにもかかわらずである。同調査によれば,母子世帯の就業状況は,パート・アルバイト及び派遣・契約社員等の非正規労働が50.3%を占めている。
このように,我が国では,特に子育て中の1人親世帯におけるワーキングプアが深刻な状況であり,このような世帯を前提としても,生活保護水準を上回る賃金水準を確保することが喫緊の課題である。
そして,本年6月30日閣議決定された「日本再興戦略」改訂2015-未来への投資・生産性革命-においても,「すべての所得層での賃金上昇と企業収益向上の好循環が持続・拡大されるよう,中小企業・小規模事業者の生産性向上等のための支援を図りつつ,最低賃金の引上げに努める。」とされているところである。
したがって,神奈川県の地域別最低賃金は,子育て中の1人親世帯において毎月勤労統計調査の平均的な労働時間を前提としても,県内において最も高い地域の生活保護水準を上回るように大幅に引き上げられるべきである。
以上
2015(平成27)年8月13日
横浜弁護士会
会長 竹森 裕子
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