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会長声明・決議・意見書(2015年度)

特定商取引法に事前拒否者への勧誘を禁止する制度の導入を求める意見書

2015年07月09日更新

2015(平成27)年7月8日
横浜弁護士会 会長 竹森 裕子

第1 趣旨

特定商取引に関する法律を速やかに改正し,訪問販売及び電話勧誘販売の取引類型について,事前拒否者への勧誘を禁止する制度(ドント・ノック制度,ドント・コール制度)を導入することを求める。

第2 理由

  1. 現在,内閣府消費者委員会の特定商取引法専門調査会において,特定商取引に関する法律(以下,「特定商取引法」という。)の改正に向けた検討が行われており,大きなテーマとして,訪問販売及び電話勧誘販売において,不招請勧誘を禁止する制度を導入すべきかどうかが議論されている。
  2. 現行の特定商取引法では,訪問販売及び電話勧誘販売について,契約を締結しない意思を表示した者に対する勧誘は禁止されているものの(再勧誘の禁止,特定商取引法第3条の2第2項,第17条),事前の包括的な勧誘拒絶の表示(例えば「勧誘お断り」のステッカーなど)はこの意思表示とは認められていないことから,消費者が望まぬ勧誘を予め防止することができない仕組みとなっている。
    しかしながら,これでは,消費者は事業者による突然の訪問や電話に応答した上で,それぞれの事業者に対して拒否の意思を伝えなければならず,新たに訪れる事業者の勧誘による迷惑自体を免れることができない。また,いったん事業者による巧みな勧誘が開始されてしまうと,これを拒絶することは必ずしも容易ではなく,消費者が不本意な契約や不当な契約を締結せざるを得なくなる事例も多発している。
  3. 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)のデータによれば,訪問販売及び電話勧誘販売に関する相談件数は依然として高水準にあり,特に消費者の自宅を訪れて勧誘を行う家庭訪販に関する相談件数は,なお増加傾向にある。また,訪問販売及び電話勧誘販売の契約当事者は,その半数以上が60歳以上の年齢層に属しており,年齢が高くなるほど契約金額や既払い金額が多額となるなどの特徴もみられる。
    神奈川県内においても,平成26年度上半期神奈川県消費生活相談概要によれば,高齢者が判断が不十分なまま契約させられたとする相談が全体で203件あった中で,家庭訪販によるものが95件,電話勧誘販売によるものが60件(合計155件)となっており,この2つの取引類型で,全体の実に約76パーセントを占めている。
    これらのデータは,悪質な訪問販売業者や電話勧誘販売業者が,拒絶の意思を表示することが難しく,判断能力が十分でない高齢者を狙い撃ちにして,不必要な契約や不当な契約をさせている実態を物語っているとともに,高齢者であると否とを問わず,訪問販売及び電話勧誘販売に関する現行の規定が,拒絶の意思を表示することが難しく,判断能力が十分でない者に関する消費者被害の発生を防止する機能を果たしていないことを示しており,高齢者の単独世帯または高齢者のみの世帯が今後とも増加していく中で,法改正を行うことが喫緊の課題となっている。
  4. そこで,これら消費者被害の発生を防止するため,特定商取引法を改正し,訪問販売及び電話勧誘販売において,事前拒否者への勧誘を禁止することにより,「望まぬ勧誘を防止できる制度」を速やかに導入することが必要である。 具体的には,訪問による勧誘に関しては,これを望まぬ消費者が,勧誘を受ける意思がない旨を表示したステッカーを門戸に表示した場合には,事業者は勧誘を行ってはならないとする訪問販売拒否制度(ドント・ノック制度)を採用すべきである。また,電話による勧誘に関しては,これを望まぬ消費者が電話番号を予め登録することができ,事業者は登録のあった電話番号への勧誘を行ってはならないとする電話勧誘拒否登録制度(ドント・コール制度)を採用すべきである。
    これらの制度は,既に欧米各国,オーストラリア,韓国等の諸国で採用され,実績を上げているところであり,ドント・ノック制度に関しては,日本国内でも条例を設けている自治体があり,これに法律上の根拠を与え,全国に拡大する意味を有するものである。
  5. なお,かかる制度を導入することに対しては,訪問販売及び電話勧誘販売を行っている事業者から,「営業の自由」を根拠とする反対意見が提出されている。
    しかしながら,「営業の自由」と言えども,人が嫌がることを行うことを正当化するものではないから,あらかじめ訪問販売や電話勧誘販売による勧誘を受けたくないとの意思を表示している者に対し,その意思に反して勧誘を行うことが「営業の自由」に含まれるとは考えられない。また,特に訪問販売業者が消費者の自宅を訪れて行う家庭訪販に関しては,消費者の「生活の平穏」という保護法益との関係からしても,無制限の「営業の自由」が保護されるものではない。
    また,この事前拒否者に対する勧誘禁止制度は,いわゆる「オプト・アウト方式」による規制であり,消費者に対する勧誘を原則として禁止し,例外的に消費者側から勧誘を招請された場合のみ,勧誘ができるとする「オプト・イン方式」による規制と比較して,より緩やかな規制である。そして,この制度が導入されても,事業者が勧誘を事前に拒否していない消費者に対して勧誘することまでが禁止されるものではなく,訪問及び電話による勧誘以外にも,テレビやラジオのCM,新聞広告,インターネット等による広告を行い,その広告等を見た者に対する勧誘することが可能である。
    結局,事業者の「営業の自由」を理由とする反対意見には根拠が乏しいと言わざるを得ない。
  6. よって,当会としては,訪問販売及び電話勧誘販売の類型について,事前拒否者への勧誘を禁止する制度(ドント・ノック制度,ドント・コール制度)を導入する必要性は極めて高く,これらの制度を導入するため,特定商取引法を速やかに改正するよう,意見を述べる。
  7. 以上

     

 
 
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