2015年07月09日更新
本年6月25日,名古屋拘置所において死刑確定者1名に対する死刑が執行された。
今回,死刑を執行された死刑確定者は,いわゆる闇サイト殺人事件と呼ばれる事件の加害者であるが,同事件は,第一審の死刑判決後,自ら控訴を取り下げ,その後,弁護人が取下げ時の精神状態に問題があったとして取下げの効力を裁判で争ったという事件であり,さらに,3名の加害者のうち第一審で死刑を言い渡された1名の共犯者は控訴審で無期懲役に減刑され,それが確定した。本件死刑確定者も,もし控訴審で十分な審理がなされていれば,無期懲役に減刑された可能性もあった。また,再審請求の準備も開始されており,被害者が1名であったことからしても,死刑について極めて慎重な判断が求められる事案であったというほかない。多数の死刑確定者の中からどのような経緯で本件死刑確定者を選んで死刑執行したのか,その理由は一切明らかにされていない。
死刑は,人の生命を奪うという究極的な国家権力の行使であり,それを許すか否かは,国民が十分な情報と知識を有する状況で,真剣な議論を尽くした上で選択すべき事柄である。 取り分け,昨年3月27日に再審開始決定が出た袴田事件や,死刑執行後の再審請求が続く飯塚事件が象徴的に示すように,刑事裁判が誤判の危険性を常にはらむものである以上,死刑制度の存置は無辜の者が処刑されるという取り返しのつかない結果を招く可能性を抱え続けることになるという事実から目を背けてはならない。
日本弁護士連合会は,昨年11月11日,上川陽子法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑執行の停止をするとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して,死刑制度とその運用に関する情報を公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査の上,調査結果と国民的議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,全ての死刑の執行を停止することを求めていた。にもかかわらず,何らの情報公開も調査も議論もなされないまま今回の死刑執行がなされたのは,極めて遺憾であるというほかない。
国連総会は,昨年12月に,全ての死刑存置国に対し,死刑廃止を視野に死刑の執行を停止するよう求める決議を過去最多の117か国の賛成で採択している。 また,我が国に対しては,国連人権理事会や国連拷問禁止委員会,国際人権(自由権)規約委員会から,死刑廃止に向けた様々な勧告がなされており,昨年7月23日にも,国際人権(自由権)規約委員会が,日本政府に対し,死刑の廃止を十分に考慮することなどを勧告したばかりである。
当会は,改めて,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,死刑の執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開した上で,死刑制度の廃止についての全社会的議論を開始するよう重ねて強く求めるものである。
2015(平成27)年7月8日
横浜弁護士会
会長 竹森 裕子
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