2014年07月02日更新
安倍内閣は、7月1日、集団的自衛権の行使が憲法9条の下で認められる自衛の措置としての武力の行使である等とする閣議決定を行った。
これまで政府は、自衛権の発動には、①我が国に対する急迫不正の侵害、すなわち武力攻撃が発生したこと、②これを排除するために他の適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきことの3要件が必要だとし、外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止するものとしての集団的自衛権は、上記①の要件を欠くものであるから、憲法9条によりその行使は許されないとしてきた。これは、40年以上にわたって定着してきた政府の一貫した憲法解釈であり、自衛隊を保有して自衛のための実力行使を認める政府にとって、専守防衛政策の最低限の歯止めとして、憲法9条の平和主義の核心をなすものであった。
この度の閣議決定は、この定着した政府の憲法解釈を覆し、我が国が直接の武力攻撃を受けていなくても、他国のために我が国が反撃することを認めようとするものである。すなわち、上記①の要件を、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に変更する等により、「自衛の措置」としての武力の行使を認めようとするものである。
しかし、これは憲法9条の核心部分の内容を変更してしまうものとして、本来、正規の憲法改正手続をとらなければできない性質のものであり、憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う内閣が、閣議決定などという方法でなしうることではない。すなわち、かかる閣議決定は、憲法の条規に反する行為として無効である(憲法98条1項)。
実質的にも、「我が国の存立が脅かされ」「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」などの文言は、極めて抽象的であって、時の内閣の判断により容易に、これらに該当するとされてしまいかねない。
そして一旦、我が国が領域外において他国のために武力の行使をすれば、それは相手国に対する宣戦布告とみなされ、相手国の我が国領土に対する攻撃を招くことになり、かくして我が国は交戦状態に陥る。そのような事態が、現実に危惧されるのであり、平和国家日本の国の在り方が根底から変えられてしまうことになる。
また、この度の閣議決定には、集団的自衛権の容認にとどまらず、いわゆるグレーゾーンでの自衛隊の武器使用の拡大、海外での他国の武力行使への後方支援の拡大、他国でのPKOや邦人救出の活動領域の拡大等も含まれており、このような活動の拡大の中で、この点でも自衛隊の武力行使に至る危険の増大することが危惧される。さらに、この閣議決定の「自衛の措置」は、実質的に、国連の集団安全保障措置への参加の余地をも残すとみられ、我が国の海外での武力の行使が際限なく拡大する危険がある。
当会は、昨年11月14日「集団的自衛権の行使の容認等による平和憲法の改変に反対する会長声明」を発表し、また、本年5月20日「憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を容認することに反対する決議」を通常総会において採択した。これらによって当会は、集団的自衛権の行使容認は憲法9条に違反し、また立憲主義を根底から覆すものとして許されないこと等を明らかにしてきた。
にもかかわらず政府が、憲法をないがしろにする上記閣議決定を行ったことは、極めて遺憾であり、ここに強く抗議し、その撤回を求める。
また、今後政府は、この閣議決定を実施するため、集団的自衛権等の行使の根拠や方法等を定める自衛隊法の改正その他の立法措置をとろうとしている。しかし、その法案もまた、憲法に違反するものとなることに変わりはない。
当会は、これらの立法措置や政策の実施に対し、今後さらに、その違憲性、危険性等を国民、市民に強く訴えつつ、日本国憲法の平和主義及び立憲主義を堅持するための取組を一層強化することを表明するものである。
2014(平成26)年7月2日 横浜弁護士会 会長 小野 毅
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