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憲法96条の憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明
会長声明・決議・意見書(2013年度)
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憲法96条の憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明
2013年06月13日更新
日本国憲法第96条は、憲法改正の発議要件として、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議」すると定めるが、最近この要件を緩和しようとする動きが急である。
自由民主党は、2012年4月に発表した日本国憲法改正草案において、第96条の改正規定を、衆参各院の総議員の過半数で発議するように変更しようとしており、その他の政党からも同様の主張がなされている。その背景には、まずは改正要件を緩和して、その後に人権保障規定や平和主義、統治機構に関する条項などの改正を容易にしようとする意図がうかがえる。
ところで当会は2007年12月の総会決議で「横浜弁護士会 10の決意」を表明し、その一つとして「横浜弁護士会は個人の尊厳を尊重し、基本的人権を擁護する日本国憲法の立憲主義を守ります」と宣言し、政党や国会で憲法改正の論議が活発になされる中で、「横浜弁護士会は憲法改正をめぐる議論において立憲主義の理念を堅持すること、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義などの日本国憲法の基本原理が尊重されることを求め、人権擁護の活動に取り組」むことを誓った。
このような当会の基本的立場からすると、冒頭の憲法改正発議要件緩和の動きには立憲主義の観点からして看過しがたいものがある。
そもそも、憲法は、基本的人権を保障するため、たとえ民主的に選ばれた権力に対しても縛りをかけ、その濫用を防止するための仕組みを定めた国の基本法であり、この立憲主義という基本理念は、長い人権抑圧の時代を経て、近代市民革命を通じて、人類がその英知の結晶として獲得したものである。
日本国憲法が「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」(97条)とし、続けて憲法を「国の最高法規」と位置づけ(98条)、さらに公務員に広く憲法尊重擁護義務を課した(99条)のも、まさにこの立憲主義の理念に基づくものである。 その上でさらに、日本国憲法は、これらの条文と一体となる重要な憲法保障制度として96条の憲法改正手続規定を定めているのである。すなわち、憲法は、多数決によっても侵し得ない基本的人権を保障する最高法規であるから、国会においても、国民の間でも十分慎重な議論を尽くした上でなければ改正できないとして、厳格な改正手続要件を定め、権力の濫用を防止したのである。
したがって、改正手続要件の緩和は、まさに人権保障のために権力に縛りをかけるという立憲主義の理念を根底から揺るがすものであって到底容認しがたいものである。
この点、国民の過半数が憲法改正に賛成であっても、いずれかの議院において3分の1を越える議員が反対すれば、発議すらできないのはおかしいとの意見もあるが、すでに述べたとおり、厳格な改正手続要件は、国の最高法規として、改正にあたっては単なる多数決ではなく、国会においてもより慎重な審議を尽くし、国民の間でも十分な議論を尽くすべきであるという理念に基づくものであるから、このような批判はあたらない。むしろ、国会議員の過半数による発議を認めれば、その時々の権力に都合のよいように憲法が変えられてしまい人権保障が形骸化する虞がある。
また、憲法96条の改正要件が厳格に過ぎるとか、そのために一度も改正されずにきたとの批判もあるが、諸外国には憲法96条よりも厳格な要件を定める国もあり、憲法施行後66年間経過しても一度も改正されなかったのは、それだけ憲法が広く国民の支持を受けてきたからに他ならないのであって、そのような批判はあたらない。
今回の憲法96条改正の動きは、上記のとおり憲法の立憲主義の根本理念に反するものであり、当会としては、かかる憲法改正発議要件の緩和に強く反対するものである。
2013年(平成25年)6月12日
横浜弁護士会
会長 仁平 信哉
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