横浜地方裁判所長 佐藤歳二さんに聞く |
各界から現状の裁判制度につき批判がなされていますが、まず裁判に時間がかかるという批判について、いかがお考えでしょうか。 |
批判の要因の一つは、法曹内部の感覚と、現在の情報化、国際化された国民生活・取引のテンポとのずれにあると思います。裁判にかかる平均期間は、諸外国と比較しても遅くないし、昔と比べればずいぶん早くなっているのですが、我々の考える以上のスピードを要求されているということだと思います。 |
また、公害、薬害、特殊行政事件、特許事件等の専門的知見を要する事件は確かに時間がかかっており、スピードアップが必要だと思います。そのためには専門家の協力を得ることが必要ですが、裁判所では鑑定人の確保に務めているほか、争点整理の段階からの専門家の関与についても検討しています。また、専門家調停委員の活用もすすめています。 |
裁判遅延の原因の一つとして、裁判官数が足りないという意見がありますが。 |
裁判官一人の訴訟だけの取扱い事件数を見れば、むしろ昔の方が多かったようですが、迅速性を要求される程度が強まって弁論期日の間隔が短くなっていること、専門的事件が増えていること等から、裁判官が精神的に負担を感じていることはあると思います。また、特に都市部では執行事件や破産事件などが急増傾向にあります。最近では年間数十名単位で裁判官の増員がされていますが、裁判官の人数だけが増えれば解決するというものではなく、内部的には書記官・事務官、さらに法廷・調停室も必要ですし、弁護士の協力なども整わなければならないと思います。 |
裁判の迅速化と適正さについて。 |
裁判には迅速性と適正さが両輪として要求されますが、気持ちとしては、従来は要求の程度が「適正・適正」と二回言ってから「迅速」という感じであったのが、最近では、逆に「迅速・迅速」と二回繰り返して「適正」とくる感じになってきたように思います。これも、基本的には国民が選択すべきことですが、一方を重視すれば、他方はある程度後退するのはやむを得ないことと思います。ただ、迅速といっても、それはあくまで当事者のための迅速を考えるべきです。また、急に迅速だけを優先すると、適正面を忘れがちなので、十分注意しなけばならないと思っております。 |
迅速という面では、一回期日で終わる少額訴訟はその一つの実験だと思いますので、国民がこれを良しとすれば、こうした制度を拡大していっても良いのではないでしょうか。 |
次に、裁判官が市民的感覚からずれているとの批判については、どうお考えですか。 |
裁判官は、常に紛争という病理現象から社会を見てしまうので、世の中のいわば生理現象を見るために、裁判所としても、若手裁判官に民間企業や行政庁、報道機関などへの出向や施設見学などをしてもらっております。しかし、基本的には裁判官個人の世間を知ろうという努力にかかっていると思います。私は、弁護士の方々とも仕事以外でもっと接触するといいと話しているのですが、若手裁判官はどうしても自制する傾向があるように思います。 |
裁判官の市民的自由についてのお考えは。 |
市民的自由があることは当然です。政治的自由も含まれるとする国もありますが、その是非は終局的には国民の選択することだと思います。この問題については、制度論として十分に議論してほしいと思いますが、このことと裁判官の市民的自由の問題は別です。 |
裁判官としては、例えば訴訟に発展しそうな問題への関与は自制するべきでしょうが、日常の交際の中でそういった問題に直面して判断をすることに意味があり、判断する場面を避けることなくいろいろな人と付き合うべきだと思っています。 |
(インタビュー 会長 岡本 秀雄)
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