横浜弁護士会新聞

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2000年2月号(2)

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少年えん罪事件をテーマに構成劇 当会会員が熱演
 少年法「改正」法案の国会本会議での審議入りが見込まれるなか、平成一一年一二月一一日、県民ホールにおいて、日弁連・横浜弁護士会共催による少年法「改正」を考える市民集会「もう 言えなくなっちゃうよ真実(ホント)のことが〜ある少年えん罪事件をテーマにして」が開かれた。
 昭和六三年に足立区綾瀬で起きた綾瀬母子殺し事件を題材にした構成劇を中心に、同事件において被疑者とされた少年B君と付添人であった栄枝明典弁護士、森和雄当会少年問題委員会委員長のトークを織り込んだ構成。
 注目を浴びたくて「犯人を見た」と子どもっぽい嘘をついたことから、警察による厳しい取調べを受け、やってもいない犯罪を自白させられていく様子がリアルに描き出される。
 弁護士などの法曹役だけでなく、少年の父母、取調べ警察官の役まで少年問題委員会委員を中心とする当会会員が熱演した。少年を、怒鳴りつけ、嘘をつくなと責め、孤立化させて自白に追いつめていく迫力ある取調べに鳥肌のたつ思いだったが、B君によれば、実際の取り調べはさらにきつかった、という。
 幸い、調査官や付添人に真実(ホント)のことを話すことができ、アリバイ等の立証により非行事実なしとの審判がなされたが、構成劇では、少年法「改正」後の審判廷の状況をシュミレーションし、検察官関与、裁定合議制など「改正」法案の問題点を浮かび上がらせた。「教育の場」から「裁きの場」に変わった審判廷で、少年は、「こんなんじゃもう 言えなくなっちゃうよ真実(ホント)のことが」と叫ぶ。
 構成劇終了後、影山秀人日弁連子どもの権利委員会事務局長から、「現行少年法は、少年を信じ、時には悪いことをしても少年には立ち直る力があると信じる立場をとっている。これに対して『改正』法は、少年は信じられない、やっていてもやっていないと言い逃れる、そんな少年を一人たりとも逃さないという立場だ。少年法『改正』問題は、大人社会が子どもたちにどう対していくのかという重要な問いかけをつきつけるもの。法案に注目し考えてほしい。」との呼びかけがなされた。
 少年法「改正」賛成論は、被害者救済の観点から語られることがあり、会場からもその趣旨の発言が相次いだ。犯罪被害回復制度の早期実現は確かに必要であるが、これと少年えん罪を出さないことは別であろう。この問題の複雑さがかいま見えた集会であった。

修習までの略歴を
 北九州市の出身、京都大学法学部では、原田和徳横浜家庭裁判所長と同級生でした。
 私の学生時代は、安保闘争の直後かつ就職難という時代背景と三九年臨司の答申を受け、法曹を目指して司法試験を受けようとの雰囲気が学内に充満していました。私もとりあえず受験してみようと考え、一年留年して、昭和四〇年に合格、二〇期です。横浜弁護士会では、大川隆司、宮代洋一、横溝正子(同クラス)会員らが同期生です。
修習中の思い出は
 開放的で多種多様な情報が集中している東京にあこがれ希望して東京修習になりましたが、視野が開け非常に楽しい修習生活を送ることができました。貧乏でしたが、人と情報に恵まれ、人生最高のときであったと思います。但し、下宿住いのため、情報過疎下にあり、自宅起案は苦労しました。
検事を志した理由は
 当初の志望は弁護士でした。ところが、検察修習で、特捜部に配属され、あらゆる面で強烈な印象を受けました。検事は、本ではわからない生の事実に触れることができ、自分の好奇心をも満たすことができる、実に得がたい商売であると強く感じました。
 そこで、志望を検事に変え、昭和四三年、福岡地検を振り出しに各地を回り、前橋地検時代には、半年間ですが、ドイツでの在外研究も経験しました。その間昭和四七年八月から二年間、横浜地検にもいました。そして、矯正局長を経て、二度目の横浜に検事正として戻ってきたのです。みなとみらい地区の変貌には目を見張るものがあります。
心に残る事件は
 横浜地検時代に担当した清水ケ丘殺人事件が最も印象に残っています。暴力団元組長が殺害された事件ですが、被疑者は否認していました。捜査にあたり、上司の栗本六郎次席より「完全否認している被疑者に事件のことは一切聞くな」「君の人生を語れ」「二〇日間、事件のことには触れるな」という心構えを説かれました。これには、カルチャーショックを受けました。それまでは、自白を得ようとガンガンやってきたことですし……。捜査の神髄を教えられました。
後輩検事に一言
 検事の物の見方が世間と乖離していないかと危惧しています。例えば、女性を被害者とする犯罪については、被害者にも多少の落度はあるなどと考え、男性側からの見方に偏っていたのではないかとの反省があります。隼君の交通事故死の処理についても同じ事が言えるのかもしれません。国民の意識も大きく変化してきており、検察官の柔軟な対応が強く要求される時代になったと思います。
法曹一元化について
 原理的にはあり得る議論だと思います。しかし、検察官については、現状は捜査官としての職人的要素も強く、一元化の対象とするには無理があると思います。やはり、弁護士・弁護士会と裁判所(宮)の問題でしょう。なお、熱心に唱えている弁護士会に一元化を受け入れる基盤があるのか些か疑問です。アメリカのローファームのような人材供給源があればともかく、日本の場合、例えば退官後はどうするのでしょうか。
弁護士・弁護士会に望むこと
 横浜での実情はまだよくわかりませんが、自分の思想を貫くために依頼者を犠牲にしていないか、イデオロギー的論争に片寄りすぎていないか、それらが本当に依頼者の利益になっているのか等という観点が重要だと思います。少年院での否認少年に対する矯正の難しさなどを考えると、もっと柔軟な発想が必要なのではないでしょうか。
 …ご家族は、一男(東京勤務)一女(結婚独立)で、官舎には奥様と二人住まいとのこと。
 また、ご趣味は、ゴルフ・マージャン・自転車その他で酒もタバコも嗜むとのこと。
(インタビュー 副会長 佐藤 修身) 

 平成一一年一二月三日、弁護士業務妨害対策委員会の主催により、当会五階大会議室にて、業務妨害対策研修会が開かれた。同委員会は平成九年一二月に弁護士業務妨害対策マニュアルを発行するなど積極的に活動を行ってきているが、今回の研修会は具体的な事案を通じて、その対策のノウハウを会員間で共有しようというものである。
 研修は二部構成で行われ、第一部は、坂本弁護士事件を始めオウム問題で著名な滝本太郎会員の講演が行われた。
 オウムの滝本会員に対する業務妨害はすさまじく、それに対処するために防弾チョッキを購入し、防犯ベルを事務員に持たせ、監視カメラを設置するなど、まさに命をかけた戦争とでもいう、貴重な体験談が聞けた。また、ビラ配り、街宣、居座り、噂の流布、訴訟乱発、懲戒請求等の業務妨害に対する具体的な対処方法や、精神病質的な相手への対処方法、カルト集団に対しては、一人を目立たせないように弁護団の拡充を図るなど、具体的な対処についてレクチャーがなされた。
 第二部は、当番弁護士で接見した弁護士が刑事弁護の依頼を受け、その解任後、かっての依頼者から何度も理由のない訴訟を起こされたという実際にあった事案につき、宮田学会員、石戸谷豊会員、滝本太郎会員の三名をパネラーとしてパネルディスカッションが行われた。この事案では、当初、対処に苦慮し孤軍奮闘する弁護士の姿が浮き彫りになり、やがて弁護団の結成により事案が解決されたというもので、各パネラーから業務妨害を受けている弁護士に対し、他弁護士の援助の必要性等が指摘された。
 最後に恵崎和則委員長から、当会においては会員の公益活動への参加が義務化される一方、当番弁護士等の公益活動の遂行に当って招来された業務妨害に対しては当会内部に支援弁護士制度を創設する必要があり、現在準備を進めているとの話があり、大変有意義な研修会を終えた。
(栗田 誠之) 

 昨年度横浜を含む各地で司法試験合格者(司法修習生内定者)に対する事前研修が行われたが、今年度も二月一七日と二二日の二回に分けて実施される。この事前研修は、修習期間が二年から一年半に短縮されたのを受けて、これを少しでも補おうという趣旨で企画されたものだが、その内容は、刑事法廷傍聴と解説、川島清嘉元司法研修所教官による研修所ガイダンス、法律事務所訪問、弁護士との懇談会などからなっていて、研修所入所ないし法律実務への橋渡しの役割を担っているということができる。この企画については、勤めを持っている人に参加の機会がなく不公平だとの意見や、逆に司法改革の一分野ととらえてもっと拡充させるべきだとする意見もあり、また新人弁護士に対するいわゆる事後研修とのかねあいも議論されているが、初めて実務の一端や弁護士に接した受講生には評判は上々のようだ。
 多くの会員のご協力をお願いすることとなりますが、どうぞよろしくお願いします。
(司法修習委員会  副委員長 遠矢 登) 

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