横浜弁護士会新聞

2009年4月号  −1− 目次

新構想の都市型公設事務所始動へ
 2月25日、当会会館5階大会議室において臨時総会が開催された。平成16年に決議された都市型公設事務所に新構想を加えて新たに設置・運営するための「公設事務所の設置・運営の支援等に関する決議の件」その他の議案が審議され、全ての議案が賛成多数で可決・承認された。
 
第11号議案
公設事務所設置、運営の支援等に関する決議の件
 
 加藤副会長より、提案理由の説明がなされた。当会においては、すでに平成16年に都市型公設事務所の設置・運営に関する会規が制定されているが、その所長職を担う弁護士が現われず未設置のままであった。そこに、当会若手の一会員から、都市型公設事務所の新構想が出された。弁護士過疎地の公設事務所等での執務経験のある数名の弁護士が中心となってパートナーシップを組み、そこに過疎地の活動を希望する新人を勤務弁護士として受け入れ、養成していくことを主要な目的に据えるというものである。4年前の提案とは異なる点が多く、会員も1・5倍近くに増えていることから、あらためて総会の決議をとる必要があるというものである。
 本決議案に関して議論は白熱し、質問も続出した。相談センターとの関係はどのようになるか、既存の供給型事務所ではなぜ不十分であるのか、具体的に想定している事件の種類はどのようなものか、当会からの支援金の限度額は極度額であるのか、税務関係や開設後の収支の見込の検討はどのようなものか、当会の監督の態様はどのようになるのか等である。
 これに対する執行部からの回答は、相談センターとは規模も能力も比較にならず、むしろ協力関係となる、既存の供給型事務所では担当事務所の負担があまりにも大きい、想定している事件は公益的な事件を優先するという点が一般の事務所と異なる等であった。しかし、将来の見通し等については未だ不明確な点もあり、検討が不十分な面があるのではないかとの疑念が残った。
 反対意見としては、設置・運営上重要な点について、また特に将来生じうる事態について検討が足りない、将来多額の出費が当会に求められる危険がある、検討不足ゆえに慌ただしい印象があり、受任した事件の処理が丁寧に出来るかどうか懸念がある、近年の当業界の趨勢を考慮して同じ理念を実現する別の手段を検討すべきである等の意見がそれぞれ表明された。
 賛成意見としては、理念に強く共感することを前提として、さらに修習生に希望を与えるものである、細部が未定であっても大方針を決定すべきである、県民への大きなメッセージとして重要である等の意見がそれぞれ表明された。また、新構想を発案した若手会員から、地方の公設事務所で得た経験を、地方へ行くことを望む会員に伝える場がないこと、地方の司法過疎の解消を増員による自然増のみに頼ることは妥当でないこと等が熱く語られた。
 採決の結果は、賛成143、反対83、棄権12であり、本議案は賛成多数で可決された。
 今回の臨時総会で、新公設事務所始動のための最初の一歩が踏み出されたが、総会での議論で明らかになった未検討部分もあり、実際に事務所開設に至るまではまだ幾多のステップが残されている。当会が、総会決議によって新公設事務所始動を決定した以上、現場で開設を推進する会員たちの努力や情熱を無にしないよう、会としての協力が今後さらに求められる。
 
第6号議案
共済資金積立金の返還の件
 
 川島副会長より、提案理由が次のように説明された。昨年の当会の共済制度の廃止に伴い、従来より積み立てられた共済資金積立金残金の処理について、会員アンケートの回答結果と、返還しないとする根拠が考えにくく、会内合意の形成が困難であると想定されたことから、残額全額(掛金全額ではない)を支払済掛金額に応じた按分で返還することとした。
 この議案に対しては、すでに退会した元会員との不公平、共済の本来の目的は扶助であるとして反対意見が出されたが、賛成多数で可決された。
 
第7号議案
横浜弁護士会会費の件
 
 川島副会長より、共済制度廃止に伴い、会費の内で共済資金に充てるとされていた部分につき減額する余地もあるが、当会の近年の顕著な財政難、今後の見通しが明るくないことから、会費額を維持すべきであり、実質的に会費の値上げといえるため、あらためて総会の承認を得るべきと判断したとの説明がなされた。
 この議案に対しては、不必要な出費を控えることを求める意見が出された。会長から、健全財政に努めるとの決意表明がなされ、賛成多数で可決された。


山ゆり
 小説家村上春樹のファン(私を含む)は時に自虐的な意味合いをこめて自らを「ハルキスト」と自称する
 最近でこそ、『軽い流行作家』ではなく、『ノーベル賞も噂される世界的文学者』として紹介されることが多くなったが、少し前まで愛読書は村上春樹と言うのには気恥ずかしさを伴ったものだ
 そんな僕らが愛してやまない村上春樹。先日、イスラエルの文学賞を受賞し現地で受賞スピーチを行った。パレスチナ・ガザ地区に対する武力行使を国民の90%(!)が支持する国で、彼は、システム(時に爆弾や戦車)と個人(時に非武装の民間人)を、壁と卵になぞらえ、自らは常に卵の側に立つと述べた。そう、「壁がどんなに正しくても、卵がどんなに間違っていても」だ蝶々
 この言葉の受取り方は人それぞれだろう。「弱者や個人は常に正しいのだ」とむきになる人もいるかもしれない
 ただ、この不条理な世界で巨大なシステムに相対するのに必要なもの。それはきっと人間の弱さや愚かさに正しく寄り添い、人権・正義の類の手垢にまみれた言葉に頼らず意思表明することだ
 これをあの場でさらりと言ってのけた村上氏。卒業できないなぁ。
(山田 一誠)

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