会員 大川 隆司 |
私が当会に登録換となったのは昭和59年で、36期の先生方と同じ頃だが、実は20期で、第二東京弁護士会に16年間所属していた前歴がある。 |
登録して最初に勤めたところは、家永三郎教授の教科書検定違憲訴訟を中心的に担う事務所で、初任給は月額4万円だった(ちなみに修習生の給料は2万6000円)。私の師匠に当たる8期の某先生のお嬢さんが、小学校で「私のお父さん」と題する作文に、「お父さんはべんごしです。だから、うちはびんぼうです」と書いた、というエピソードが事務所会議で披露され、大笑いした。 |
私が主任として担当した最初の行政事件は、国鉄(現JR)の駅舎建設工事費用を地方自治体である品川区が寄付しようとする行為を差止める訴訟だった。 |
国鉄は、既存路線上の新駅をつくる費用を自ら負担しないことを原則としており、この原則はJRとなった今日でも変わっていない。新駅は地元の請願に基づき、地元負担で建設されるべきものとされ、「請願駅」という言葉が今でも使われている。 |
一方、昭和55年当時の地方財政再建促進特別措置法によれば、地方自治体が国鉄に寄付することは禁止されていた。 |
そこで区当局は、寄付の受け皿として「新駅期成会」なる団体を設置し、ここを経由して駅舎建設費用の全額に相当する16億円を国鉄に届けようとしたのであった。 |
法律上の争点は、第三者を経由すれば寄付禁止規定の適用を免れるのか、という単純なもので、法廷は弁論2回で結審となった。 |
東京地裁(泉徳治裁判長)は、昭和55年6月10日の判決で、第三者経由は脱法行為であるとして、16億円全額の寄付を差止めた。この判決はその日の朝日新聞夕刊の1面トップで報じられた。私が住民訴訟にハマってしまったきっかけは、この事件だった。 |
結局品川区は、公金の支出は取りやめたが、駅舎予定地付近の公有地を民間デベロッパーに払下げ、その民間会社が、マンション建設に伴う開発利益の一部を国鉄に寄付するという手法により、駅舎は建設された。 |
横須賀線を利用する方なら御承知の、現在の「西大井」駅である。 |
訴訟の目的は、「駅舎建設阻止」にあったわけではないので、それはそれでよいのだが、行政というものは、二枚腰、三枚腰の持ち主だということを実感した。 |
「国鉄西大井駅事件」は古い話だが、これを思い出させる判決が平成18年9月25日大津地裁(稲葉重子裁判長)であった。 |
滋賀県栗東市内に、東海道新幹線の「栗東新駅」を設置する費用にあてるための地方債の借入れが、地方財政法所定の目的を逸脱するものとして、これを禁止した判決である。駅舎建設費用240億円全額を滋賀県および栗東市と周辺市が負担するという計画にブレーキがかけられた。滋賀弁護士会所属の先生が担当された事件だが、4半世紀前との「水脈」のつながりを感じた。 |
住民訴訟の存在意義は、納税者の本質的利益の法的救済にある。私自身は、日暮れて道遠しの感を深くするが、若い方々の関心が得られれば幸いである。 |