横浜弁護士会新聞

2007年1月号  −2− 目次

寒さはねのけ 今年も盛況 弁護士フェスタinKANAGAWA2006
 昨年11月30日、恒例の「弁護士フェスタin KANAGAWA」が開催され、会場となった横浜開港記念会館及び当会会館は約840人の参加者で賑わった。今回の弁護士フェスタで特筆すべきは、裁判員劇に、裁判官・検察官・家裁事務官が当会会員らと共に出演し、その後のパネルディスカッションも法曹3者共同で行うことができたことである。
裁判員劇 量刑判断、割れる「私が夫を殺しました」
あらすじ
 被告人は、5歳の娘をもつ専業主婦。夫を刺殺し、殺人罪で起訴されている。弁護人は動機として夫からの暴力を主張。ところが3人の証人により被告人の主張の信用性が揺らぐ。まずは被告人を診断した外科医が、被告人の体には傷一つなかったと証言。次に、生命保険の販売員が、被告人が夫に多額の保険金を掛けていたと証言。更に、近所の女性は、事件の2週間ほど前、被告人が若い男性と一緒にいるところを目撃したと証言。検察官の見立ては、『愛人男性を共犯とする保険金目的殺人事件』。「一緒にいた男は誰か?」被告人に詰め寄る検察官。そのとき、会場から1人の男性が立ち上がる。…「私です!」急遽、証人に採用されたその男性は、被告人が「娘が夫から性的虐待を受けている」と悩んでいたことを証言。男性は、心理学を専門的に学んでいることから、被告人の相談を受けていた。被告人は娘を性的虐待から守るため夫を殺害したが、娘の将来を思うあまり真の動機が話せなかったのだと…。
 今年の裁判員劇は、題して「私が夫を殺しました」。有罪であることは争いがなく、もっぱら情状だけが問題となる事案であった。作家の中島博行氏(第40回江戸川乱歩賞受賞)書き下ろしの物語は、情状事件でありながら、どんでん返しが用意されており、終始目が離せない舞台となった。公開評議・量刑アンケートの結果は、人によってまちまちで、量刑について統一的な判断を下すことの難しさが浮き彫りとなった。
公開評議
 求刑は懲役12年。弁護側は執行猶予を主張している。裁判官役の仁平正夫会員らと、司法記者クラブ所属記者からなる裁判員6名が公開評議を行った。公開評議では、「娘に手を出すような人は死んでもしかたがない」「実家に娘を連れて帰るなど、娘を守る他の方法があったのではないか」など、さまざまな意見が出た。
裁判員制度についてのパネルディスカッション
 続いて、古川武志会員の司会のもと、横浜地裁・横浜地検・当会による裁判員制度についてのパネルディスカッションがあった。パネリストは、鈴木秀行氏(横浜地裁第一刑事部裁判長)・上田邦彦氏(横浜地検総務部長)・清水規廣会員であり、市民向けに、裁判員制度の概要・目的・実際に裁判員になった場合の具体的イメージについて説明した。
評決結果
 公開評議体による評議結果は有罪で懲役11年の実刑。会場参加者からのアンケート結果は、有罪197人中108人が執行猶予であり、公開評議体の量刑とひらきがあった。
人権賞 在日外国人、女性の人権擁護に尽くした2団体へ
 第11回を迎えた本年度人権賞は、「特定非営利活動法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾」と「社会福祉法人礼拝会ミカエラ寮」の2団体が受賞した。
 「信愛塾」は、1978年に在日韓国・朝鮮人の子供会として誕生して以降、28年間にわたり、在日外国人の子供たちの学習権保障のための補習教室、夏期学校(ハギハッキョ)や生活相談活動のほか、指紋押捺拒否問題や横浜市国籍条項撤廃運動の支援など、在日外国人と日本人との共生社会実現のために地道な活動を続けており、外国籍住民の多い神奈川県におけるその大きな存在意義が評価された。
 「ミカエラ寮」は、1985年に設立されて以降、21年間に亘り、DVや経済的理由によって行き場を無くした女性や同伴児の保護及び自立支援活動を行ってきた。日本で最も古い民間シェルターであり、現在もDV防止法に基づく委託シェルターとして、年間200人を超える保護者を取り扱うなど、その地道な民間活動が評価された。
 受賞の挨拶に立った信愛塾センター長の竹川真理子氏は、「本日の受賞はこれまで一緒に頑張ってきた仲間たちのおかげ。しかし現在もなお、入国管理局や児童相談所に留め置かれ学校に行けずにいる子供たちがいる。今後も、子供たちの教育権や家族との生活を守るため、下を向かずやれることをやり、前を向いて頑張っていきたい」と述べた。また、ミカエラ寮施設長の澤信子氏は、「これからもキリスト教の愛の精神のもとに、行き場を失った女性たちの自立支援、就労支援、人権回復に全力を尽くしたい」と述べた。
 会場には、2団体の各関係者のほか、信愛塾の子供たちも詰めかけ、会場からは彼らにも暖かい拍手が送られた。
各シンポジウム いずれも盛況
 当会会館会場では、今や毎年恒例となった大規模無料法律相談会が行われ、134件の相談があった。相談者は、待ち時間の合間に、法律相談センター・紛争解決センターの制度説明ビデオや写真部の展示にも関心を寄せていた。
 2つのミニシンポが開かれ、「個人情報保護のその後−個人情報保護Q&A−」では、個人情報保護法制の概要、制度を巡る問題とその対応等がテーマとされた。「『僕はやっていない…なのに』(取調べの実態)」では、被疑者の取調べ状況を劇にしたビデオの合間に弁護士が解説を加え、無実の人間がなぜ自白に追い込まれるのかを考える内容であった。
 開港記念会館会場では、女流棋士による指導対局、美術同好会の展示のほか、法教育委員会、犯罪被害者支援委員会、弁護士会各支部のパネル展示が行われた。
 3つのミニシンポが開かれ、「悪徳商法にご用心」では、高齢者を狙った悪徳商法などの被害実態を寸劇に仕立てつつ、被害に遭った場合の対処法等を市民に分かり易く解説した。「『美しい国』の国会で 今、憲法が−国民投票法、教育基本法、そして共謀罪−」では、昨今話題の3問題につき、緊迫した国会情勢と課題の報告、今後への対処について討議がなされた。「かながわにも子供のシェルターを!!」では、子供への虐待が社会問題となる中、子供の安全な居場所の確保について討論がなされた。

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