横浜地方裁判所長 佐藤歳二さんに聞く(2) |
法曹一元制の導入についてはどうお考えですか。 |
制度の内容が論者によって異なっていますが、法曹人口の増大、弁護士の偏在化の是正、共同形態の推進、弁護士倫理の確立等の条件が整えば、望ましい制度であると思います。 |
しかし気になるのは、法曹一元が実現すれば、問題がすべて解決するような流れにあることです。キャリア制度にも長所と短所があるわけで、長所は全国どこでも同じレベルの司法サービスを提供できるため、地方でも等しく公正な裁判が受けられるということです。キャリア裁判官には紛争の多様化に対応する柔軟性、専門性に欠けるという短所が指摘されるようですが、これらは研鑽制度の改善や裁判への専門家の協力を受けることなどで対応できると考えます。段階的には、キャリア裁判官と法曹一元裁判官の併存により、裁判官に多様な人材が集まることが重要だと思います。 |
弁護士任官についてはいかがお考えでしょうか。 |
弁護士任官は、法曹一元の実験だと思います。現状のように一年に全国で数名程度の弁護士任官しかない状況では、法曹一元も理念だけに終わってしまうのではないでしょうか。 |
必要な資質は、弁護士も裁判官も基本的には同じで、当事者の話をよく聞き、物事を厳正中立に判断できるということだと思います。裁判官向きの人ばかりでは、裁判所は変わりません。弁護士として優秀な人、バリバリやっている人に任官してほしいと思います。 |
陪審制・参審制についてはどうお考えでしょうか。 |
陪審制は、真実発見については現状より後退することは明らかです。いわゆるラフ・ジャスティスになることは避けられないと思いますし、陪審制の導入により、えん罪や誤判がなくなるという意見には賛成できません。現行の検察審査会では審査員の出席の確保にすら困難をきたしており、こうした現状から見ても陪審員の出席確保などで国民の負担が伴いますし、連日開廷を実現するため弁護士の協力が可能かなどの問題もあります。ムード的に民意の反映がすべて善であるかのように考えられる向きがあるようですが、陪審制の実現により、現在の裁判がどう変わるか、また、国民の協力が必要なこと等をきちんと国民に説明し、納得を得ることが必要だと思います。 |
参審制については、専門家を入れるというやり方もありますし、選任等の面でも陪審よりやりやすいと思います。 |
特許訴訟・税務訴訟での弁理士・税理士への代理権付与、簡裁民事事件の司法書士代理権について。 |
本来、その当否については、裁判の利用者が考えることでしょうが、それぞれの分野で専門家が活躍している現状と簡裁での弁護士関与率が一〇パーセントに満たないことを認識する必要があると思います。代理権付与に反対するだけで、この分野で弁護士がちゃんとやらなければ反対論として説得力がないと思います。 |
司法書士については、研修をしっかりすることがもちろん前提ですが、少なくとも本人が一人で訴訟をやっているより専門家の力を借りる方がよいことは明らかだと思います。国民の権利意識の向上や、紛争の多様化により、簡裁の裁判官の後見的訴訟指揮にも限度があります。 |
法曹人口の増加と法曹養成制度について。 |
難しい問題ですが、全国的にどのような司法サービスが行われているのか、どれだけの需要があるのか、弁護士の職域拡大をどう考えるかなどに関わっており、結局は国民が法曹に何を望んでいるかであると思います。 |
法科大学院、ロースクール構想は、論者によっていろいろな考えがありますが、大学教育と法曹養成を結び付ける議論は必要だと思います。ただ、論者によっては、実践的な研修を軽視する嫌いがあるようですが、法曹としての執務姿勢、人権感覚、職業倫理の涵養等が必要であり、そうした理念がなくて良いという考えなら問題だと思います。 |
新民訴の定着について |
新民訴の運用によって随分変わることがあると思いますし、これが定着すれば国民のニーズの相当範囲の部分で応えることができると思っております。目標・理念はきちんと掲げることが必要ですが、その実現には現実を踏まえて段階的に進めることが大切で、それぞれの地裁などによるローカルルールもあって良いと考えています。 |
弁護士、弁護士会に対するご要望は。 |
第一に、制度論の議論は結構だが、裁判所と一緒に、現行制度の長所と短所を国民にきちんと情報提供すべきだと思います。未だそれが十分になされていないので、ややムード的な議論になってしまっている感じがします。 |
第二に、国民のニーズの中で、現行制度の枠の中で実現できるものがあったらこれを実践していく努力が必要だと思います。弁護士会と裁判所の間で直接意見を言い合って運用面での改善策を見つけていく、そうした雰囲気をお互いに作りたいと思います。 |
最後に、司法制度というと裁判所の問題と捉えられがちですが、世の中の紛争の大半は弁護士が関与しており、弁護士に対する国民の期待はますます高まっていると思いますので、弁護士の業務形態等の改革ということももっと検討していってほしいと思います。 |
(インタビュー 会長 岡本 秀雄)
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