3月2日、神奈川大学法科大学院の鶴藤倫道教授の講演会が当会会館にて行われた。「債権法改正に向けての債務不履行法の体系的位置づけについて」と題した2時間にわたる熱のこもった講演は、法制審議会民法(債権関係)部会で現在進められている債権法改正に関する議論における中心的テーマである債務不履行法の枠組みについて、現在の学会での議論状況や比較法に触れる貴重な機会であった。内容を逐一紹介する紙面はないため、印象に残った点を二つ取り上げたい。
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一つは債務不履行責任の帰責事由の考え方である。近時は、帰責の根拠を過失責任ではなく、「契約は守られねばならない」という契約の拘束力におく考え方が有力であり、それによれば、免責事由は契約における想定外の事由(債権法改正検討委員会の立法提案における表現では「契約において債務者が引き受けていなかった事由」)という考えになるそうである。 |
例として、ある品物を届けるという運送契約を締結したものの、履行期に台風が来たため届けられないという場合、台風の到来が想定外なのであれば免責事由となるが、天気予報で知っていた上であえて契約を締結したのであればそうならない、ということであった。 |
なるほどとも思えるが、なお違和感を拭えない。これまで「無過失」は規範的要件とされ、評価根拠事実及び評価障害事実の総合考量によって評価されていた。契約締結時の予測状況だけではなく、履行期における被害状況、代替措置の有無、債務者の払った努力など諸事実が総合的に考慮されるように思われるが、これらは考慮外となるのだろうか。 |
もう一つは、契約解除における解除の趣旨、目的から説き起こされる要件論である。フランス民法との比較だけでなく、ドイツ民法の起草過程をおっての変化を分かりやすくご説明いただくという、ドイツ法のこの分野を専門に研究されている鶴藤教授ならではの内容だった。 |
たとえば、ドイツ民法典の立法過程においては、解除の根拠を債権者にとって履行を受ける利益が消滅していることに求める考えが支配的であり、全部不能の場合、帰責事由は解除の要件として不要と考えられていた。にもかかわらず、実際の立法において帰責事由が要件とされたのは、危険負担との峻別に必要との考えに加え、解除が損害賠償と同一要件のもとでの選択的な権利とされたことによるとのことであった。 |
このようなお話を伺って、あるべき規定の具体的内容に関する論議も大切だが、危険負担や瑕疵担保など他の制度との関係も深い分野だけに、制度趣旨、他の制度との切り分けなど、基本を見据えた論議の必要性を痛感した。 |
司法制度委員会では、今後も県内の法科大学院の研究者等の講演会などを通じて情報提供に努めつつ、当会としての意見集約に励んでゆきたいと考えている。各会員におかれては、日々の業務等を通じて関心をお持ちの論点につきご意見を積極的に表明していただければ幸いである。 |
(会員 石原 隆) |