横浜弁護士会新聞

2009年8月号  −3− 目次

講演会 内田貴参与が語る 債権法改正の意義
 司法制度委員会は、債権法改正動向につき会員に情報提供するべく、6月25日、当会会館において、内田貴法務省参与(東京大学元教授)、筒井健夫法務省参事官を招いて、「債権法改正の課題」と題する講演会を開催した。
 最初に、岡部光平会長から挨拶があり、「債権法改正の基本方針」(改正試案)はあくまで学者の提案であり、これで議論の全てが終了した訳ではないので、我々実務家は、債権法改正についてこれからじっくりと意見を述べていくべきである(これは宮誠日弁連会長の考えでもある)などの話がなされた。
 内田参与の講演では、(1)世界的な民法改正の動き・取引法統一化の潮流の中で、世界的スタンダードが確定しそれへの調和圧力に応じざるを得なくなる前に、日本独自の法解釈適用の蓄積に基づき、19世紀型の現行民法典を現代化し、アジア発の債権法のあるべき姿を世界に示すとともに、(2)「法の支配」の貫徹する民主社会の基本法典として、市民に分かりやすい民法典(司法制度改革が理念とする事後救済型社会の要請でもある)にするというのが、今回の民法改正の目的である旨詳述された。そのほか、改正試案の具体的内容の一部も解説された。
 質疑応答では、熱心な会員から質問及び意見が出され、活発な議論がなされた。
 講演の閉会に際し、佐藤正幸当委員会委員長より挨拶があり、債権法改正の機会に立ち会えることを僥倖として、今後、会員の意見を集約し、会として意見を述べていきたい旨が話された。
 民法の大改正について会員の関心は極めて高く、計96名が本講演会に参加し、盛況のうちに終了した。
 なお、改正試案の詳細については、別冊NBL126号を参照されたい。
 (会員 清水 雅史)


常議員会のいま 都市型公設を巡る弁護士らしい議論
会員 北島 美樹
 本稿を執筆している時点で、今年度の常議員会の開催回数は4回である。その中で、印象に残っている議論がなされた議案をひとつご紹介することとする。
 当会と、開設予定の都市型公設事務所との間では、公設事務所契約および金銭消費貸借契約の締結が行われる。当会にとって初となる都市型公設事務所に関する契約については、その条項について活発な議論がなされた。
 一例を挙げると、公設事務所契約の更新条項に関する議論があった。これは当初、当事者のいずれかが特段の意思表示をしなければ更新される(すなわち一方の特段の意思表示あれば更新拒絶可能)という内容の条項であったところ、「当会の様々な支援を受けて開設される公設事務所側からの一方的な更新拒絶が可能な契約とすべきか否か」という問題提起がなされ、熱心な議論がなされた。
 もちろん現時点で、公設事務所側からの更新拒絶が具体的に想定されるということでは決してないが、将来の様々な可能性を見据えて、期を問わず様々な会員からの意見が出された。その結果として「正当な理由がない限り」公設事務所側からの契約更新の拒絶はできないという一文を加えるなど、具体的な条項の修正が一部行われた。
 この一例のように、一見ありきたりに思える条項を決して読み流すことなく、当会の将来のため様々な場面を想定した活発な意見が交わされているのを目の当たりにして、常議員1年生の私は毎回、まさに最も「弁護士らしい」会議であるなあとの印象を強くしている。


新こちら記者クラブ 司法制度改革へのとまどい
 関東に住む親類は弁護士を目指している。すでに大学を卒業しているが、司法試験に向けた勉強に励んでいる。残念ながらまだいい知らせは届いていない。仕事柄、裁判なども聞いたりするので、食事に行ったときなどに裁判や裁判員制度について話したりもする。
 親類はちょうど司法改革まっただ中の時期に法曹界を目指すこととなった。かなりとまどいがあったと話している。親類は、ともに弁護士を目指す友人らがロースクールに行く姿を見て迷ったようだが、結局はロースクールには行かなかった。法曹界を目指す人の中にも今回の司法改革には疑問を持っている人も多いという。もっとも懸念しているのは司法試験合格者数の増加だという。「金儲けや安定が目的の人ばかりではないけれど、そういう人も増えると思う。人を裁いたり、罰したり、救ったりするなら、それ相応の知識や経験が必要。お勉強だけができればいいというものでもないと思う。いっそ、一度社会に出てボランティア活動とかいろいろやってからつくようにした方がいいと思う」と話していたことが頭に残っている。たいした説明もなく、あれよあれよという間に司法制度改革は進んでいったような感覚すらある。
 すでに裁判員制度は動き出している。親類が弁護士になるころには制度も落ち着いているかもしれない。いい制度として定着しているといいのだが。
(産經新聞 大渡 美咲)


理事者室だより(14) 忙中“歓”あり
副会長 阿部 泰典
 理事者生活が始まってから3か月が過ぎようとしている。毎週月曜日の午後に開かれる理事者会の審議事項や日直の日の決裁文書の多さに圧倒される。
 日直の日の来会苦情者や市民窓口から回ってくる電話苦情者への対応では、理事者として「弁護士会」の看板を背負っていると、言い回しにとても気を遣う。10以上ある担当委員会からは、いろいろな対応を依頼され、理事者会で課される宿題とともに忘れずに処理できているか日々ヒヤヒヤ。
 常議員会では、私が担当する委員会が作成した会長声明案が「歴史的大差」で否決され、ひどく落ち込む。
 もっとも、辛いことばかりではなく、理事者要出席の宴席で嬉しかった話を二つほど。
 5月14日、吉戒修一横浜地裁所長の歓迎会。来会苦情者の対応のため遅刻して空いた席に座ったところ、お隣の初めてお会いする大先輩の先生から、「弁護士会には長い間お世話になったので寄付をしたい」とのお話。自分のポケットに入る訳ではないが、会計担当の私は、自分がもらえるかのように嬉しく思った。その後、その先生からは、実際に多額の寄付がなされた。
 6月2日、新62期修習生1班の歓迎会。会が中締めとなる頃、1人の修習生が私のところに寄って来て、「前のクールで刑裁だったのですが、先日の公判前整理手続での検察官の主張に対する先生の的確な反論で、裁判官室は喧々諤々の議論になっていました」とのこと。やはり本来業務の内容で褒められると嬉しい。ちなみに、その件(国選事件)は、その後、2人いた被害者のうちの1人に対する関係で強盗致傷罪の致傷が成立しないとの判決をいただいた。
 という訳で、理事者をやっていてもたまには?良いことがあります。

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