横浜弁護士会新聞

back

2003年7月号(2)

next
横浜家裁 八束新所長インタビュー リーガルプロフェッションとして切磋琢磨を
さる五月一四日、新しく横浜家庭裁判所長に着任された八束和廣裁判官を所長室に訪れ、様々な話をうかがった。
☆  ☆  ☆
―ご出身や経歴などをお聞かせください
 出身は愛媛県で、高校までを過ごしました。大学は日本大学、司法修習は一九期です。昭和四二年任官後、各地に赴任し、東京、大阪、福岡の各高裁で刑事裁判を担当しました。前任地は福岡家裁です。
 裁判官になったのは、誰にも影響されずに自分の信念に従って仕事ができると思ったからです。
―印象に残っている事件にどんなものがありますか
 ともに刑事事件ですが、被告人が服役後に再審を求めた事件で、犯人性を精査し再審開始・無罪の判決を下した「缶ビール詐取再審事件」や、妻子殺害と自宅放火につき、一審が有罪にした妻殺害の点についても合理的疑いを拭いきれず無罪とする判決を行った「足利妻子三人殺害放火事件」が印象に残っています。
―ご趣味や休日の過ごし方を教えてください
 絵画・陶器の鑑賞や散策が好きで、赴任先での美術館や名所旧跡の訪問はいつも楽しみです。あとはテニスで体を動かしたり、家では園芸・読書などしております。
 横浜近辺では、鎌倉のお寺や金沢八景など訪ねてみたいと思っています。
―横浜に対する印象などは何かお持ちですか
 横浜は全く初めてですが、事件が多くその内容も豊富であり、仕事のやりがいを感じております。また文化と歴史に恵まれ、中華街等食生活も豊かであり、申し分のない環境だと思っています。
―家裁事件の動向についてお気づきの点はありますか
 家事事件は家族観の変化等を反映して複雑困難化しております。とりわけ親権者の指定や面接交渉等子供をめぐる問題で当事者の対立が激化しているようです。成年後見関係の事件も事件数が旧法時代の三倍以上に増加しており、専門班を立ち上げて取り組んでいるところです。更に、社会問題となっている児童虐待、ジェンダー、DV等の問題にも迅速適切に対応できるよう勉強していく必要があると思っています。
―人事訴訟の移管に関してはどうですか
 移管に伴い人的・物的手当のほか実際の運用の検討も必要ですので、検討委員会を発足させ、具体的な検討に入っております。移管後は調停の充実が一層必要になると思います。当事者が主体的に関与して自己決定していけるようなプロセスモデルを構築していくべきだと考えています。
 なお間もなく、家裁庁舎の増築工事が始まり、来春には調停室が増加する予定です。
―弁護士へのご要望などありますか
 仕事上、法曹三者間に適度の緊張関係は必要ですが、根底には相互の信頼関係がないとよい仕事はできないと思います。弁護士さんには、事件の解決に本当に相応しいのは何かという観点からのご意見をいただければと思います。
―司法制度改革について何かご意見がありますか。
 司法制度改革に裁判所として協力すべきことはもちろんですが、改革を待つまでもなく私たちはリーガルプロフェッションとして、より利用しやすくわかりやすく頼りがいのある司法を目指し、日常の運用面の工夫・改善を図っていくべきです。プロフェッションとは単なる技術ではありません。マインド面が重要です。
―横浜弁護士会へのメッセージを
 今後も裁判所とのよき関係が維持されることを希望します。そして開かれた司法を目指し、お互い切磋琢磨していくことが大切だと思います。
(聞き手 篠崎百合子副会長、畑中隆爾)
☆  ☆  ☆
 穏やかな語り口に引き込まれ、つい所長室へ長居してしまったが、言葉の端々から「国民のための司法」という意識が窺われるお話であった。
 翌一五日夜には、中華街「萬珍楼」にて当会主催の新所長歓迎会が開催され、箕山会長ほか多数の会員が参加してにぎわった。検察官時代に公判廷で新所長と対席したことのある会員からは、次回期日をかなり先にしか入れようとしない弁護人を、新所長が手帳を見せてくださいと叱責したという熱いエピソードも披露された。

山登健二会員の弁護士資格喪失に当たっての談話
横浜弁護士会 会長 箕山 洋二
平成一五年六月四日
 当会会員である山登健二会員に対しては、詐欺と公正証書原本不実記載、同行使の罪で起訴がなされ、一・二審で有罪判決が出ておりましたが、本年六月二日、最高裁判所において上告棄却の決定がなされ、同月三日にはこれが同会員に送達され、本日これに対し同会員が異議申立権を放棄したために、懲役三年執行猶予四年の判決が確定いたしました。これにより、同会員は本日弁護士法六条一号により弁護士資格を喪失致しました。
 同会員の非違行為により県民・市民の皆様の弁護士に対する信頼が損なわれたことは誠に残念であり、改めて会と会員を代表して深くお詫び申し上げます。
 なお、同会員に対しましては、当会の懲戒委員会におきましても懲戒処分を検討し、本日処分の評決と本人への言い渡しの準備をすすめておりましたが、同会員の弁護士資格喪失により処分不能の止むなきに至りました。
 本懲戒処分が最高裁判所の決定前の、より早い時期に発動されなかったことは極めて遺憾であり、誠に申し訳ありません。
 今後、当会における懲戒の手続がなぜこれほどまでに遅れたのかを徹底的に検証し、しかるべき対策をとりたいと考えております。
 当会は、昨年、当会の歴史上戦後初めての除名処分を出さざるを得ないという事態を契機として、深い危機感を持って、会員の重大な非違行為については懲戒処分の発動以前であっても市民に情報提供するという事前公表制度を会規制定により導入いたしました。更に、会員に対する倫理研修の徹底、市民からの苦情情報の積極活用による実効ある会員指導、綱紀委員会・懲戒委員会の迅速処理のための努力などを継続・強化しているところであります。
 山登会員の非違行為は昭和六二年から平成七年にかけてのものではありますが、改めて会としての襟を正してまいります。
 今後も引き続き、会員の非違行為の再発防止と根絶を第一義に、会と会員を挙げて全力を尽くし、県民・市民の皆様の信頼に応えうるよう努力する所存です。

計画審理 ―第9回民裁懇―
 五月二九日午後五時三〇分から八時まで、当会会館五階大会議室において、第九回民事裁判懇談会が開催された。
 今回のテーマは「計画審理」である。今国会で審議中の「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」では計画審理についての規定が新設され、「裁判の迅速化に関する法律案」では第一審訴訟手続について原則二年以内の終結が盛り込まれるに至っており、裁判所・会員らの関心も高く、当日は裁判官三〇名、書記官一五名、弁護士四九名と多数の参加者を得た。
 最初に、吉本徹也横浜地方裁判所長から、今回のテーマは時機を得たものであり、活発な議論による成果を期待する旨の挨拶があった。
 続いて、司法制度改革審議会や法制審議会などの弁護士会側委員を日弁連としてバックアップする委員会に参加してきた清水規廣会員から、計画審理に関する法案についての内容、その審議経過、及び問題点などについて、東京地方裁判所で実験部となって計画審理を全件実施している民事第四九部の実情や、我が国での平均審理期間に対する統計的な考察なども交えながら、詳細な説明がなされた。
 また、「提訴予告通知」といった計画審理の前提となる早期の証拠収集を可能にする新たな制度等についても、その内容や問題点、更にこれが弁護士業務全般に及ぼす影響などについても説明がなされた。
 次に、裁判所から竹内純一裁判官及び市村弘裁判官により、横浜地方裁判所本庁における審理の実情についてのレポートがなされた。両裁判官は、計画審理の導入に向けて本庁に設置された審理状況調査小委員会のメンバーであり、集積された客観的・定量的なデータに基づきカラー印刷された分かりやすいグラフ等を駆使して、進行阻害要因などの分析結果が発表された。
 続いて、土屋文昭裁判官により、審理計画の実施についてのレポートがなされた。本庁では第八、第九民事部が計画審理の実験部とされており、既に計画審理の策定・審理計画票の作成・交付が始まっている。計画審理のためには裁判所と当事者双方との協力が不可欠であり、計画倒れにならないような柔軟な対応も必要であるとの指摘がなされた。
 その後、これらの報告を踏まえて、質疑応答、意見交換がなされた。裁判所からは、争点の概要を早期に提示することを妨げているものは何かなどの質問が寄せられ、弁護士は依頼者との間の微妙な関係について理解を求める発言が目立った。
 最後に、箕山洋二会長から、関係者の労を謝し、今後の更なる発展を期待する挨拶がなされ、懇談会は終了した。
 民裁懇は概ね三〜四か月に一回の割合で開催されており、今回のテーマである計画審理は更に議論を深めるため再度テーマに掲げることが予定されている。
(民事裁判手続運用委員会 委員 古賀謙一)

▲ページTOPへ
戻る
内容一覧へ