副会長 小島 衛 |
日弁連「弁護士倫理委員会」は、現行弁護士倫理(平成2年3月2日臨時総会決議)の見直しを行い、同委員会案を作成し、当会にも意見照会があった。日弁連の委員会案は、従来総会の「宣明」という形式で施行された「弁護士倫理」を「弁護士業務基本規程」と改称して「会規」(総会決議が必要)とし、一層の遵守を要求し、その違反は弁護士法56条1項により懲戒事由になりうるものとしている。 |
会規化することに対しては、その違反が直ちに懲戒事由とされることにより、弁護士法1条の使命に基づく弁護士活動の萎縮を招き依頼者・国民の利益が損なわれるとして反対する考え方もある。 |
しかし、当会は、近い将来の弁護士数の激増・様々な態様の事務所の出現、弁護士事務所の法人化・営業許可制度の廃止などによる弁護士の職務の多様化、報酬規定の撤廃、近年の弁護士による非行の増加とそれに対する市民の批判などに対応するための核となる共通のルールが必要であるという立場から、弁護士倫理の一部を会則化することには特に反対しないことにした。しかし、他方、(1)現行の弁護士倫理は、懲戒などで強制せず自主的に遵守されるべき高い理想の規範を含むので、その全てを会則化して懲戒処分の対象とすることには問題があり、理想を示した訓示的規定は、前文に移すか削除する。(2)その違反を直ちに懲戒事由とするのが適当でないものは努力義務であることを明らかにする。その方が、綱紀・懲戒手続に関与する市民にとりわかりやすい。(3)解釈に疑義を残すような不明確な条項はその表現を改めるべきであるとした。 |
当会の意見書は、当会の関係各委員会の意見をもとにして作成したが、個別の規定では、(1)「弁護士は依頼者の権利を擁護する立場から事実をゆるがせにしない」(第7条)は、客観的真実義務を規定したものか主観的真実義務を規定したものか不明確であるとの批判、刑事弁護には適用しないとすることが妥当かにつき賛否両論があった。更に、(2)依頼者間に利害対立が生じたときは「すべての依頼者の事件を辞任しなければならない」(第43条)とすると、弊害も考えられるので当会の意見書では「すべての依頼者の事件を辞任することも含めて、適切な措置をとらなければならない。」とした。 |
その他にも、議論された問題点は多いが回答までの時間が限られた関係で充分議論が尽くせなかったことが残念である。全国的にみると、倫理委員会案に対しては、異論も強く、本年度には総会で審議せず、次年度の総会で審議することが決定された。尚、来年の4月から廃止される報酬規程に関係する部分は、職務規程から外して別途規定がされることになった。 |
9月29日午後6時から、横浜弁護士会館で、日弁連弁護士倫理委員会委員である長谷川武雄会員を囲んで会内懇談会が開催された。これは全ての弁護士に重大な影響が及ぶ「弁護士業務基本規程(日弁連委員会案)」について、当会での議論を深め、その意見を日弁連の議論に適切に反映させるためのもの。 |
〔日弁連の状況〕 |
箕山会長の開会挨拶、小島副会長による規程を巡る経緯の説明に続き、長谷川会員から日弁連の倫理委員会の状況について報告があった。
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会規としての本規程の制定は、弁護士に対する国民の信頼確保のために、弁護士の業務内容や理念等を対外的にも明らかにする必要性が生じたこと等による。例えば平成16年4月に発足する綱紀審査会に関与する弁護士以外の国民の判断基準としては、総会の宣明に過ぎない弁護士倫理ではなく、明確な会規の方がよい。 |
懲戒との関係は、規程の条項に形式的に違反すれば懲戒になるという運用にはならず、懲戒相当の非行かどうかの実質判断が維持されると考えられている。ただ、懲戒に直接結びつく条項と努力規程とを区別するためにはいかなる表現手法が適切かの議論がなされている。 |
各条項については、前文の位置づけや真実義務については議論が多い、法令精通義務や公益活動は努力規程になる見通し、報酬については、適正な報酬とする規定のみ残して、詳細は別に会規を作る予定である等の報告があった。 |
続いて須須木会員から、準則問題の後、綱紀審査会の拘束力が回避できないという状況の中、弁護士自治確保のために透明な懲戒手続の要請が生じ、今回の規程制定という流れについて説明があった。 |
〔質疑応答〕 |
参加した会員からは、刑事弁護についての議論が不充分ではないか、濫用的な懲戒申立が増えるのではないか、規程が不明確なまま解釈に任せるのでは透明性は確保できないし行動指針にもなり得ない等の指摘があった。具体的事例を挙げた上で、それが懲戒に該当するのかどうかという質問も多くなされた。 |
また、刑事弁護において真実義務を課するべきかについて熱い議論がなされた。 |
総じて、今後の懲戒手続がいかに変化するのかに関する関心が極めて高く、その点についての指摘や質問が多かった。 |
〔その後の状況〕 |
なお、その後の日弁連での進展状況は次のとおり(11月12日現在)。 |
努力規程は、「努める」等の区別した表現をし、その趣旨を解釈指針条項で明示する。真実義務は批判が強いため、「真実を尊重」との表現にとどめ、信義誠実条項と一体化する。法令精通義務は努力規程ではなく、「事件を処理するため」と限定した上で行為規範とする。刑事弁護については、被告人等の防御権をより具体的に示した内容とする等である。 |