去る五月一八日(土)に当会五階の大会議室において、川崎子どもの権利条例の作成に携わった喜多明人早稲田大学教授、山田雄太前川崎市教育委員会人権共生委員会指導主事、条例制定子ども委員の吉田雪絵さん・嶋津絢子さんを招いて「学校・地域における子どもの権利の確立のために〜川崎子どもの権利条例制定から一年〜」と題して講演会が開かれた。川崎市では「川崎市子どもの権利に関する条例」が平成一二年一二月二一日に議会で成立し平成一三年四月一日から施行されている。 |
それに先立つ一九九八年九月に条例の制定委員会が発足し、二年間にわたって市民および子どもの参加のもとで条例試案を検討・作成し、条例が制定施行されたが、この間の経緯と条例に込めた思いを四人の方に語っていただいた。 |
市民や子ども自身の参加のもとで作られる条例の目的は、子どもを一人の人間として尊重し、権利侵害から守り自分らしく生きていくことを支えていこうというものである。 |
条例は子どもの権利について大きく七つにまとめ(安心して生きる権利・ありのままの自分でいる権利・自分を守り守られる権利・自分を豊かにし力づけられる権利・自分で決める権利・参加する権利・個別の必要に応じて支援を受ける権利)さらに子どもの参加やいじめなどからの具体的な救済策として人権オンブズパーソン制度を明記している。 |
反面、子どもの責任については前文にのみ謳われている。子どもの「権利」と「責任・義務」については試案の作成の中での大きなテーマであったそうだ。「権利と権利と謳うことによって、子どもがそれを履き違えたり悪用することになるのではないか」、市民サロンなどでも折からの神戸須磨事件の影響などから「罰則はどう作るのか」「権利を行使するのは義務をまっとうするものだ。」との考え方と「子どもには義務はない。権利は生まれながらに持っているものだと」との考え方で意見が真っ二つに分かれたそうだ。 |
このままでは子どもの権利条例ではなく子どもの責任条例になってしまうのではないかとの危惧感の中で、その二つの考え方について子ども委員の中で議論をしたところ、「自分たちは生き生きと生活をしたいけれど、隣の子を不幸にする権利はないのではないか。」という結論が出たそうだ。 |
これを聞いた大人たちは、自分たちはいつの間にか人権・優しさ、権利・わがまま、自己主張といったイメージをすり込まれていただけではないか、隣の子を不幸にする権利はないというのは大変分かりやすいことだと思ったそうだ。 |
条例試案は各行政区で七回の市民集会と大きな市民集会を四回開催し、これらの議論の末に他者の権利の尊重は「義務」ではなく「権利行使のあり方論」でまとめることになった。自分の権利を知り擁護することができるならば、自分の周りの人の権利の尊重をそこから学ぶことができるという理念のもと、子ども「責任」条例ではなく子ども「権利」条例が出来上がったということだ。 |
特に印象的だったのは子ども委員で条例試案作成に関わった津嶋さん吉田さんから「子どもの意見を聞くというのはそれを受け止める側の力が試される。その力がないと子どもはすぐに諦めるし、言葉を無くすし、切れてもしまう。でも、受け止める側の力があれば子どもから色々なアイディアが出てくるように思う。この条例に携わった大人たちは本当に良く受け止めてくれたように思う」との言葉であった。 |
講演に参加された方も市のオンブズパーソン担当職員から一般の方まで幅広く子どもの権利条例に込められた試案作成者の思いや、特に参加した子ども委員の子どもの目線から見た話を聞けた貴重な講演会であった。 |
(子どもの権利委員会 井上泰会員) |