温かい空気に包まれて… |
第55期修習生 太田 啓子
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私が弁護修習でお世話になっている事務所では、離婚事件の妻側代理人の仕事が多い。必ずしもどちらか一方だけに帰責できない離婚もあるだろうが、私が見せて頂いたケースは、妻側代理人から見ているというのを差し引いても、妻の方に肩入れしたくなってしまうものが多かった。 |
大体共通しているのは、夫が生活費を入れなくなったとか慰謝料や和解金の名目で夫が支払うという金額が驚くほど低いとか払えない等の金銭トラブルを夫との間で抱えているということだ。 |
失礼な言い方かもしれないが、専業主婦にとって結婚は生活保障の場という性格も持っていると思う。夫が生活費を入れないとか、離婚時に雀の涙ほどの金しか払わないというのは、会社員が解雇されるのと同じくらい悲惨なことだと思った。明日からの生活に窮してしまうのだから。 |
その上、信頼や愛情に基づいていると信じていた人間関係も失ってしまうのだから残酷な話だ。 |
それから、夫が浮気をしているケースも多かった。不貞行為の生々しい証拠写真が出てきたり、まめな愛人のデート日記のような手紙のお陰で不貞行為の日時や場所を逐一特定できたり、浮気調査を依頼した探偵が勝手に義憤(?)にかられて夫の職場に不気味な脅迫状を何通も送りつけ、そのせいで妻まで名誉棄損の参考人として捜査機関から事情聴取を受けることになってしまったりという、まさに小説より奇なる現実を見てしまった。 |
結婚は愛情が軸にあって始まるのかもしれないけれど、離婚は単なる自由恋愛の破綻では到底終わらない様々なしがらみがあることを垣間見た。共同生活を営んで子供がいて共に財産を築いているのに、それを終えようというのは大変なことだ。離婚は今やよくある出来事のように感じるけれど、一人の個人にとっては生涯にそう何度もない一大事だ。 |
依頼人は皆どうにもやるせない思いを抱えているが、誰にでもそれを吐露できる訳ではない。水が高い所から低い所に流れるように、誰かに切々と訴えたいのに出口のない感情は、それをただ聞いてくれる人の所へ流れてくる。それを聞いたからといって何か問題解決に一歩近づく訳ではない愚痴も多い。 |
しかし、小長井法律事務所は弁護士、事務員全員でそれを受け止めてあげる、とても温かい空気に包まれた場所だった。 |
(指導担当 小長井雅晴会員) |