横浜弁護士会新聞

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2001年4月号(3)

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 六月中旬に見込まれる司法制度審議会の最終答申を前に、昨年十一月の中間報告をふりかえってみたい。
《中間報告の内容》
1 二十一世紀の「この国のかたち」をつくるべく、また行政改革等の諸改革の最後のかなめと位置づける。
2 司法の人的基盤を拡充するとして、年間千人から三千人程度の新規法曹とする。法科大学院を設置する。
3 隣接業種(司法書士、弁理士、税理士など)の権限との調整をする。民事訴訟費用は敗訴者負担を原則とする。被疑者段階からの国公選弁護人制度を導入し、そのために(弁護士会ではなく)運営主体をつくり、これを監督するなど。
4 陪審・参審制度を検討する、裁判官の推薦方法。
などである。
《基本的な視点の問題》
 では、弁護士、弁護士会は、司法制度改革をどのような視点で考えるべきか。言うまでもなく、弁護士の職責である「基本的人権の擁護と社会正義の実現」のためには、どんな改革がよいかを検討することである。
 この弁護士の職責は、何としても維持しなければならない。戦後、弁護士会は、新憲法下で、この職務にあたるべきものと規定され、懲戒権も弁護士会が握ることになった。これは、戦前、弁護士が最大の人権侵害である戦争を止める力となり得ず国家総動員体制に組み込まれたこと、一部の治安維持法と闘った弁護士を弁護士会が擁護できなかった最大の原因が、検察に弁護士の懲戒権があったことに対する反省の上に立ったものである。
 それからすると、前記の「この国のかたち」として、明治新政府から説き起こした中間報告は、どこかそぐわない感じを受ける。もちろん敗戦と、国民主権、司法の独立の重要性は説いているが、司法が戦争を抑止する力となり得なかったことの反省が書かれていない。それは弁護士、弁護士会のみの反省ではなく、司法全体の反省であったはずである。「公共性の空間」という趣旨不明の新用語をつかい「自律的個人を基礎とし」としつつ、知識も経験も不足し証拠資料も偏在して不利益を被っている被害者市民の立場への配慮も少ない。
 それぞれの改革は、この総論の流れにそって導き出されており、だからこそ各論で問題点が多く出てくる。
《さらに活発な議論を》
 当会では、訴訟費用の敗訴者負担について訴訟を起こすことを萎縮させるものだとして反対の会長声明を出した。被疑者公選弁護などの刑事司法改革についても、弁護士推薦の運営主体が不明確なままに、かつ国選弁護費用が低額にすぎる状態では、検察側に迎合した活動をする常勤の刑事弁護を招来するおそれがあると指摘した。
 後者は、他会からは未だ出ていない意見である。これらは、前記の弁護士の基本的な職責と歴史の反省にそうものだと思う。
 日弁連は、中間報告を委員会では検討したものの執行部として検討・批判することもせず、各単位会にも諮問もしない。一方で、会長は日弁連理事会にもかけずこの一月、突然、「懲戒審査会」なる構想を述べる状態である。
 最終答申を前に、一層の議論を求める。
(副会長 滝本 太郎)

ゴハンを食べさせておけば…
 私が弁護士になってもう一年が経ちました。
 自分ではまだ「世間知らずの初々しい弁護士」との自覚を持っているのですが、果たして人の目にはどう映っているのでしょうか。
 私は、山田・池田法律事務所で、ダンディーな山田尚典(よしのり)、池田直樹・陽子夫妻、五三期吉川知恵子の各弁護士と四人の事務局に囲まれて仕事をしています。
 私の修習地は横浜で、弁護修習先の松井宏之先生の紹介で現在の事務所に入れてもらいました。松井先生が私を紹介する(引き渡す)際に述べた紹介の言葉(商品の説明)は未だに忘れられません。曰く、「この佐藤君はご飯さえ食べさせておけば一生懸命に働きますよ」。その時は事務所を紹介してもらえるのならと笑って横で聞いていましたが、よく考えて見ると随分な紹介の仕方ではあります。しかし、その一方で人を見る目の確かさも認めざるを得ません。
 さて、私の仕事振りですが、新人を育てるために考え抜かれた事務所の教育方針なのか私が厚い信頼を勝ち得ているのか、山田・池田の各弁護士と一緒に法廷に行くことは滅多にありません(単に人手が足りないだけとの話もある)。ボスの後ろにくっついて法廷に行き、ゆったりと満ち足りた時間を過ごして帰ってくるという思い描いていた新人弁護士像とは程遠く、事情もよく知らない事件の記録を持って冷や汗をかきつつ一人で法廷に向かうことが多々ありました。それでも今では小難しい顔をしてその場をごまかすといったことも出来るようになりつつあります。こうして次第に「初々しさ」が失われていくのかと思うと少々寂しい気もしますが、初心は忘れないように頑張りますので、皆様どうぞよろしくお願いします。
 そういえば最近、山田・池田両先生に食事に連れて行ってもらうことが多いのですが、これは単に私がかわいいだけなのでしょうか。それとも私が一生懸命働いているように見えないのでしょうか……。ちょっと心配な今日この頃です。

弁護士業務妨害対策委員会に出席して
会員  大和谷 毅
 定刻五分前、間に合ったとほっとしながら部屋のドアを開けると誰もいない。一瞬部屋を間違えたかと思いドアの貼紙を確認するが間違いない。定刻になる。大きな鞄を抱えた委員が部屋に駆け込んで来る。一人また一人、たちまち五〜六人の委員が集まる。直ちに恵崎委員長の司会で会議が始まる。予定の協議事項についてそれぞれ担当委員が決まっていて、その委員が準備してきた資料が配られ、説明があり、協議が行われ、結論が出る。予定された協議事項の協議が終われば終了予定時間前でも委員会は終了する。終了と同時に各委員は席を立って次の仕事へと走り去って行く。超多忙な各委員が貴重な時間を割いて真剣に会務に取り組んでおられる姿を目の当たりにして、先ず素晴らしいと感動しました。
 会議の中心議題は、「横浜弁護士会業務妨害対策支援制度の設置に関する関連規定の解説」の作成です。ところで横浜弁護士会に当委員会が最初に設置されたのは平成五年七月のことです。時あたかも平成元年一一月四日以来行方不明になっていた坂本堤弁護士一家の救出活動に横浜弁護士会が全力を挙げている最中です。平成七年九月に至り坂本弁護士一家は無惨にも遺体で発見されました。史上稀にみる最悪の業務妨害事件です。しかし、この事件は決して特殊な例外的事件ではなく、弁護士業務を行っている限りこのようなことが、いつ、誰に発生するかも分からないことが段々と明らかになってきました。その対策としては弁護士会が組織的に対応することが最も重要です。
 横浜弁護士会の弁護士業務妨害対策支援制度は、当会の活動経験を踏まえ実務上重要と思われる事項を盛り込んだ上、支援を求める弁護士が利用しやすい制度とするため守秘義務に関する規定を明確にし、費用負担についても規定を置いた点などが特徴です。これらの規定の解説を作成しようと原案を練っている委員会に研修員として参加させて貰いました。委員会参加の最初に弁護士業務妨害対策支援制度の全体像を把握する機会を得たことは大変幸運だったと思います。

当会事務局給与規則など改正案を承認
 一から四号は人事、五、六号はパート職員採用案件。
 七号は、二月九日の日弁連臨時総会に関する議案である。臨時総会の議案は、一ないし三号が会費増額、四および五号が当番弁護士等緊急財政基金のための特別会費の増額、六号が法律事務所の法人化に関する基本方針承認に関する各議案である。結論だけを述べれば、日弁連の一ないし三号議案については二一対二、四および五号議案については二三対一、六号議案については一六対八で、いずれも賛成多数となり、当会としては、全ての議案について賛成することになった。
 九号は、平成一四年度から予定されている日弁連副会長の増員に伴う増員枠をどのように割り振るかに関する議案である。この増員に伴って、関東十県会では毎年二名の副会長を出すことで、ほぼ話がまとまっているようであるが、永井会長から、十県会内では、当会が二年に一回副会長を出し、その余の会には均等に割り当てることが了承されており、当会もこの方針でいきたいとの説明があり、異議なく了承された。
 一〇号は給与規則の改正、一一号は、事務局職制規則改正問題である。前者は、従来の四等級と五等級の間に新五等級を加えて合計八等級とし、給与アップの機会を増やすことにより、職員の勤労意欲を期待しようというもの、後者は、これまでの主任を係長に変更し、また新たに課長代理の職制を創設しようというものであり、従来、少数の管理職に多くの職員が配置されてきたことによる管理者の負担を解消するとともに、責任の明確化を図り、業務に対する職員のやる気と事務の効率化を促進したいというのが理事者の提案の趣旨である。これらに関しては、単年度の気まぐれに終わることのないように職員とも充分な協議の上で実行するようにとの指摘があったが、いずれも異議なく了承された。
 一二号は、日弁連から弁護士法第三〇条等に関してなされた当会への意見照会に対する回答の件である。紙面の関係で詳細は省略するが、現行の弁護士法三〇条が定める弁護士の「兼職の原則禁止」を改め、弁護士の多様な活動を認める意味で「原則届出制」とすること、一方でこれに伴う弊害の歯止めとして、ガイドラインを作成することなどを内容とする意見書を提出することが承認された。
 その他、現在の国選弁護人推薦制度の改正に関する求意見案件と、報告案件が二件あった。(前者は、臨時常議員会レポートで報告する。)
(副議長 瀬古 宜春)

常議員からズバリひとこと
 国選弁護につき、手数料と弁護人推薦基準の規則制定問題が議論された。推薦基準の明文規定がなかったことから、不適切弁護問題に苦慮してきた経過を踏まえ、(1)一定年齢事前承認制(2)推薦停止事由(懲戒処分等)の明文化が検討された。目的に異論はないものの、目的達成の方法として事前承認制は過度の規制ではないかとの点に議論が集中、賛否伯仲の中、総会での会員の議論と議決に委ねる事となった。
(四〇期 竹森 裕子)

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