司法制度改革審議会対策 特別委員会の意見書まとまる |
意見書の作成 |
司法制度改革審議会の議論はいよいよ本格化しようとしている。当会でも、平成一一年五月に「司法制度改革審議会対策特別委員会」が設立され、「法曹人口問題」「法律事務独占」「ロースクール構想」について議論が積み重ねられたが、ついに意見書の完成を見るに至った。三月二日常議員会で承認を受けたばかりの意見書の概略を紹介しよう。
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法曹人口の増加を |
「法曹人口」の問題については、最終的には、弁護士会がこれまで打ち出してきた「法の支配」の実現、市民にとって身近な司法を実現するという目的のために、「法曹の質を確保しつつ、年間一五〇〇人程度を採用すべき」である、との結論になった。 |
ただ同時に、法曹人口増加論の論拠とされる市民の自己責任を前提とする「競争原理論」至上論については、生涯に幾度も裁判を利用しない一般市民に法的サービスの内容を的確に判断させることは、あまりに重い自己責任を課すことになり、過酷な犠牲を強いる結果となる、との趣旨が盛り込まれることになった。 |
市民のリスクを最小に |
一五〇〇人という数字に落ち着いた最も大きな理由も、右の観点からであり、一般市民の負担する選択のリスクを最小にとどめるために、法曹の質を一定の水準に保つことが必要と判断されたためである。現在の日本で法曹の実務能力に大きな差が見られないのは、研修所、実務修習の制度が機能しているためである。一方、オン・ザ・ジョブの実務修習は、期間短縮で対応しても一五〇〇人が限度であるから、これ以上の増加は当面認められないとの結論に達したのである。 |
自己責任の原則を強調して、質を問わず増員を図ればよいと主張する立場とは、一線を画したものと言えるだろう。 |
ただ、法曹人口の漸増の結果、一五〇〇人以上の実務修習を可能にする法曹人口が蓄積され、一方で裁判官、検察官についてもバランスのとれた増加が行われるなど司法基盤整備が十分達成できた暁には、さらなる法曹人口増加に反対する理由はなくなるので、こうした場合に、需要に応じてさらなる増員を検討する可能性にも言及している。 |
法律事務の独占は維持 |
このように法曹人口について増加を認める姿勢をとった一方で、法律事務独占(七二条問題)については、安易に撤廃や緩和を認めるべきでない、という独占維持の立場を堅持した。 |
少額事件、弁護士過疎等の問題は、隣接業種の参入を認める方向によってではなく、法律扶助制度の拡充、公設法律事務所の設置等、弁護士の努力によって解決すべきものであるとの積極的な姿勢が打ち出されている。 |
こうした意見を述べる以上は、今後とも法律事務所に関するあらゆる分野において、ますます弁護士のプレゼンスを高め、独占に見合う責任を果たしてゆかなければならないことになるだろう。 |
ロースクール構想は慎重に |
ロースクール構想についても議論が沸騰したが、最終的には、「将来的な法曹養成のあり方としては検討に値するが、ただちに実行に移すのには時期尚早」との結論に達した。 |
こうした結論に到達した理由としては、実務教育で重視されるべき事実認定、要件事実について、大学のなかで研究が進んでいるとは言いがたいことなど、大学教育と実務の乖離が認められること等が挙げられている。 |
ただ、現在の司法試験は、論点整理カードの丸暗記といった勉強方法を通じて、問題解決能力の不十分な法曹を生む土壌があるし、また、司法研修所についても、その本来の目的が実務訓練にあることから、「創造的法曹」を育てあげること、さらに社会的に期待されている専門的分野での高度な知識を習得させることについてはやはり無力であるとの問題も残る。将来的には、司法試験に追いまくられず、教育の「プロセス」を重視するロースクールでの法曹養成を視野に入れておく必要があるだろう。 |
司法試験・修習制度は維持 |
ロースクールを実行に移す場合であっても、司法修習制度は維持されなければならないから、少なくとも当面は、年間一五〇〇人という実務修習枠がロースクールの定員を考えるうえで事実上の制約となるので、意見書では、こうした人的制約の問題についても言及している。 |
なお、法曹の多様性を確保するために、ロースクール制度実現後も、その卒業者に資格を限定しない司法試験を将来にわたって残すべきであるとの立場を取っている。
今後の日弁連内で議論を深めてゆくうえで、中堅地方会である当会が独自の案をまとめたことは意義深い。これを機にますます議論沸騰することを期待したい。 |
(会員 藤村 耕造)
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