2020年07月02日更新
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に様々な影響を与えています。環境問題の分野では,感染拡大を受け,本年11月に開催予定であった第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の延期が発表されました。
本年は,2015(平成27)年12月12日に採択された地球温暖化対策のための世界的な枠組みである「パリ協定」の運用が本格的に始まる節目の年です。このパリ協定では,世界の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑制し,また1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を継続すること,そのために,今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成するという目標を掲げています。COP26では,かかるパリ協定の運用状況について議論がされる予定でした。地球温暖化は刻一刻と進行しており,気候変動が原因と考えられる異常気象が毎年のように世界各地で発生し,尊い人命が多数失われています。温暖化対策は,COP26が延期となっている間も,停滞させることなく実施していかなければなりません。
しかし,このような中で,現在,神奈川県横須賀市において,横須賀火力発電所新1・2号機建設計画に基づき,石炭火力発電所2基の建設工事が進められています。
石炭火力は,化石燃料の中でも最も多くの二酸化炭素を排出し,地球温暖化を加速させます。パリ協定の目標実現のためには,発電部門における石炭火力からの脱却が必要であり,脱炭素化は今や世界的趨勢となっています。我が国にて更に石炭火力発電所の建設を進めることは,そうした時代の流れに逆行するものであり,温室効果ガスの削減に向けて努力を続ける世界各国から厳しい非難の目を向けられることにもなりかねません。
また,この建設計画では,既設発電所の老朽化に伴う更新(リプレース)であるとして,環境影響評価法が定める環境アセスメント手続の一部が省略して実施されており,手続的な問題点も指摘されているところです。昨年5月27日には,建設予定地の周辺住民等が行政訴訟を提起し,建設工事の中止を求める声も多く出ていますし,地元の若者が設立した国際的な気候変動対策を求める団体からも同様の声が上がっています。
新型コロナウイルスから人々の生命・健康を守ることは喫緊の課題ですが,気候変動もまた世界にとって大きな脅威であり,現在及び将来世代の人権問題です。各国政府においては,新型コロナウイルスまん延への経済対策にあわせ,航空から鉄道への輸送シフトを推し進めたり,温暖化ガス削減の取り組みに融資したりするなど,環境保護の取り組みを進める動きもあります。そのため,神奈川県弁護士会は,今般のコロナ禍においてなお,横須賀石炭火力発電所の建設が地球環境に与える影響に憂慮し,国,神奈川県,横須賀市,事業者に対して,地球温暖化対策に逆行することのないよう,また,国及び神奈川県が近時真摯に取り組んでいるSDGsの精神に反することのなきよう,同発電所の建設計画を今一度見直し,脱炭素化に向けて積極的な取り組みを行うことを求めます。
また,従前,自然保護の在り方を探るための現地調査に積極的に取り組んできた立場からも,神奈川県弁護士会は,生物多様性の喪失や生態系・植生の変化を招来しかねない地球温暖化問題に対して真摯に取り組み,気候変動対策に貢献してまいります。
2020年6月30日
神奈川県弁護士会
会長 剱持 京助
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