2020年05月01日更新
今般、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策に関する特別定額給付金が導入された。
同事業においては、世帯主を受給権者とし、世帯全員分の給付金を一括して振り込む扱いを原則としつつ、配偶者からの暴力を理由に避難し、配偶者と生計を別にしている者(いわゆる「DV被害者」)及びその同伴者が、基準日において居住している市区町村にその住民票を移していなくても、一定の要件を満たし、その旨を申し出た場合には、当該市区町村において給付対象とするとの例外的取り扱いを予定している。また、施設入所している子ども、高齢者、障がい者、住民基本台帳に登録のない無戸籍者にも配慮した運用となっており、2009年に実施された定額給付金の支給方法と比べれば、多くの点で改善がみられることは事実である。
しかしながら申し出の具体的方法の発表が4月27日であるにもかかわらず、申し出期間は4月30日となっており、周知期間としてあまりに短いと言わざるを得ない。この点高市総務相は4月28日の国会答弁で、「期限を過ぎても受け付ける。」「世帯主に給付された後でも、DV被害者からの申し出があれば本人と同伴者の分は支給し、世帯主に後日、二重払いとなった分の返還を求める」と発言した。しかしいつまで受け付けるのか、期限は具体的に示されておらず、結果として、各自治体の個別の判断とならざるを得ないことが懸念される。
そもそもの問題として、今日、支援団体等に相談していなくても、親や配偶者から十分な生活費すら受け取れない家庭、家族仲が不和で、家族から離れて生活している者、配偶者が家を出ているにも関わらず住民票を異動しない家庭、保護者から児童虐待を受けている未成年者など、様々な問題を抱える世帯は数多く存在する。
この点、DV被害以外の者が自ら受給する方法として、世帯分離がある。しかし、夫婦間の世帯分離は、裁判所や弁護士等の関与を疎明することが条件となっている上に、当該自治体まで本人か代理人が行かなければ手続きできないので、基準日である4月27日までに手続きできる人は極めて限られている。
確かに、給付金が全員にいち早く給付されることは必須である。しかし、最も弱い立場の人々に確実に支給することの方が更に重要である。そのためには、本来は国内で生活するすべての人をそれぞれ受給権者とすべきであり、受給権者を世帯主に限定すべきではない。世帯主への一括支給を原則とするやり方では、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮している国民を救済するという特別定額給付金の制度趣旨を実現できないばかりか、本制度がむしろ、経済的搾取・支配の温床となりかねない。
以上の弊害を改善するためは、世帯主以外も直接受領できることとして、それぞれの個人名義の口座に送金すべきである。(申請書に健康保険被保険者証等の写しを添付することとして口座名義と照合すれば、本人確認の手続きはそれほど煩雑ではなく、確実に行うことが可能である。)
仮にすべての世帯で個人口座に振り込むことが困難であるとしても、給付前に世帯主以外の世帯構成員からの申出があれば、簡易な手続きで世帯主への給付を停止し、申出をした世帯構成員が直接受給できるようにすべきである。更に申出対象者はDV被害者に限定せず、住民票上の世帯主に受給を委ねられない事情のある人すべてが、自らの希望によって受給方法を自己決定できるよう広く設定すべきであり、そのための情報提供を十分に行うべきである。
以上の制度変更ができない場合でも、世帯分離を希望する人については、より簡易な方法で迅速に手続き行えるようにすべきである。また、住民基本台帳法上、2週間以内であれば異動の届出ができるとされていることに鑑みれば、基準日である4月27日以降も、少なくとも2週間は届出を受け付けるべきである。
さらに、特別定額給付金を世帯主に独占されるなどの不幸な事態が生じた場合の事後的救済に資すべく、世帯主に対する返還請求権を行使できるよう、「世帯主が受給するのは便宜的な運用に過ぎないこと」及び「受給の権利はひとりひとりの市民にあること」を国が明記すべきである。
以上の通り当会は、すべての市民に対して的確に経済的な支援が行われるために、特別定額給付金事業の改善を求める。
2020年5月1日
神奈川県弁護士会
会長 剱持 京助
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