2019年04月26日更新
日本国憲法が施行されて72回目の憲法記念日を迎えました。
憲法は国の最高規範であって、基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義を3原則としています。憲法は、国民の自由と権利を保障するもので、権力の暴走を阻止し、国民一人ひとりを守るために制定されています。
戦前においても、大日本帝国憲法が存在しました。しかしながら、当時の憲法は、国民の様々な人権が制約され戦争を阻止することはできず、大きな犠牲を生んでしまいました。その反省のもとに、現憲法が制定されました。
時代が平成から令和へと変わる中、私達は、現憲法の理念を次代へと引き継いでいかなければなりません。
基本的人権の尊重は、どのような人に対しても多様性を許容し、一人ひとりの考えや立場を尊重することです。しかし、近年は、異質なものを排斥する差別的言動が目立つようになり、国籍や障害者、性別、性的マイノリティー等についての差別が多発しています。県内でもヘイトスピーチを行う街宣活動が行われたり、自治体による学費補助について朝鮮学校の児童・生徒に対する差別的取扱いもありました。
また、当会会員の中でも日本国籍を持たないことを理由に家事調停委員に任命されない事例があり、そのほか全国で児童虐待や高齢者・障害者虐待の報道も跡を絶ちません。旧優生保護法による強制不妊、強制中絶の被害とその放置も明るみになり、全国各地で違憲訴訟が提起されています。私達は、自分自身が差別の対象にならなければ良いということではなく、差別そのものを根絶する活動を通じて、自らの手で基本的人権を守り続ける必要があります。
国民主権は、この国のあり方について、最終的には、個人として尊重されるすべての国民が決めるということです。それは単なる多数決での意思決定を超えた、様々な意見の集約を前提としています。しかしながら、昨年度は十分な審議がされず高度プロフェッショナル制度や外国人労働者受け入れ制度が創設されました。それでは、真の国民主権が実現できません。
また、国民主権の理念は、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むとする地方自治の理念に結びつくものであるところ、原発再稼働問題や辺野古への米軍基地新設問題等で、地方自治体及び住民の意思を十分に尊重しているとは言えない事態が生じています。
恒久平和主義についていえば、現在、憲法9条1項2項を維持したまま、自衛隊を明記する憲法改正条項案がとりざたされています。しかし、自衛隊の明記により、自衛隊の行動に対する実効性のある統制を実現することに疑義が生じるうえ、集団的自衛権のもと戦争に巻き込まれる可能性もあります。平成の時代が、戦争のない平和な時代であったことについて、憲法9条の果たした役割は大きなものがあります。
加えて、憲法改正の手続きにおいては、国民の意思が十分反映されるように、広告方法や最低投票率のあり方等について徹底的に議論する必要があります。
神奈川県弁護士会は、これらの憲法の精神を県民とともに再確認し、県内すみずみまで、その精神がいきわたるように、今後もしっかり取り組んでいきます。そして、弁護士及び弁護士会の使命である、基本的人権の擁護と社会正義の実現に向けて、会員一丸となり、県民とともに真摯に活動を続けていく所存です。
2019年5月3日 神奈川県弁護士会 会長 伊藤 信吾
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