ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2014年度)

労働時間規制の緩和に強く反対する会長声明

2014年10月10日更新

 労働時間規制の緩和は長時間労働を適法化し、助長することにつながるものであり、過労死等防止対策推進法を制定して過労死・過労自殺の根絶を目指す政府の取組とも相容れないものであるから、労働時間規制の緩和には強く反対する。

 政府は、産業競争力会議雇用・人材分科会の提案を受けて、本年6月11日、労働時間法制の見直しに関する関係閣僚会議を開き、労働時間に関係なく成果に応じて賃金を支払う「新しい労働時間制度」の導入を決めた。
 その後、政府が公表した「日本再興戦略」改訂2014では、労働時間規制について、時間ではなく成果で評価される制度への改革、裁量労働制の新たな枠組みの構築、フレックスタイム制の見直し等が提言され、職務が明確で高い能力を有する労働者で、少なくとも年収1000万円以上の労働者を対象に、これまでの労働時間規制を撤廃し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えば良いとする制度が提案されている。

 労働基準法は、1日8時間、1週40時間と労働時間の上限を定め、これを超えて労働させることを罰則をもって禁止している。労働基準法が定める労働時間を超えて労働者を働かせることは、36協定の締結とこれに伴う割増賃金の支払等、同法が定める種々の制度の要件を満たすことで初めて許されることである。
 労働基準法が労働時間について、このような厳しい規制措置を講じているのは、長時間労働が労働者の心身の健康を害し、心身の疾病の発症原因になり、最悪の場合、過労死・過労自殺の原因ともなるからである。

 わが国では、労働時間に関する労働基準法の規定が、労働現場では往々にして遵守されず、使用者が労働者に対して、心身の健康を害する程の長時間労働を命じることが常態化している。
 わが国の長時間労働は、1980年代頃から国内外より問題点を指摘されてきたところであるが、一向に状況が改善されることはなく、近年では長時間労働を原因とする過労死・過労自殺の増加が深刻な問題となっている。
 長時間労働を原因とする過労死・過労自殺の増加に対しては、本年6月20日、過労死等防止対策推進法が制定され、国や地方公共団体の責務として過労死等の防止対策を推進することが、事業主の責務として国等が行う過労死等の防止対策に協力することが定められている。

 それにもかかわらず、政府が「新しい労働時間制度」を導入し、従来の「時間」による労働時間規制を撤廃ないし緩和することは、既に恒常化している長時間労働を適法化し、助長することに他ならず、長時間労働により心身の健康を損なう労働者をさらに多く生み出し、過労死・過労自殺を促進することにもつながる暴挙である。
 このように、政府が導入を決めた「新しい労働時間制度」は、単に時間外労働等に対して割増賃金を支払わなくて済む制度を導入するという金銭の問題に尽きるものではなく、使用者が労働者を際限なく働かせることを認め、許すのかという労働者の生命・身体の保護に直結する極めて重要かつ深刻な問題である。

 長時間労働の弊害が指摘されるようになって何十年という時間を経ても、わが国は未だにこの問題を克服することができないでいる。
 それにもかかわらず、長時間労働を適法化し、助長する「新しい労働時間制度」の導入を許すことは、多くの犠牲の上に成立した過労死等防止対策推進法の精神にも真っ向から反することであり、断じて認められない。
 当会は、政府に対して、労働現場における労働基準法違反の長時間労働が横行しているという現実を直視し、過労死等防止対策推進法を制定したことを踏まえて、長時間労働を適法化、助長し、過労死・過労自殺を促進する現実のおそれがある「新しい労働時間制度」の導入を即刻断念するよう強く求めるものである。

2014年(平成26年)10月9日
横浜弁護士会
会長 小野 毅

 
 
本文ここまで。