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会長声明・決議・意見書(2014年度)

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)の廃案を求める意見書

2014年10月10日更新

2014年(平成26年)10月9日
横浜弁護士会 会長 小野 毅

第1 意見の趣旨

 カジノ(民間賭博場)の設置を推進することを定める「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」の廃案を求める。

第2 意見の理由

  1.  平成25年12月,国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する議員によって「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)が提出され,今臨時国会で審議がされようとしている。
  2.  このカジノ解禁推進法案は,新たに設ける「特定複合観光施設区域」において,民間事業者によるカジノ設置・運営を解禁するものであり,現在政府が進めている,いわゆる「アベノミクス」と呼ばれる経済政策の一環として,その経済的効果に着目し,現行法上,違法とされている民間賭博を解禁しようとするものである。
  3.  しかしながら,第1に,カジノの解禁は,ギャンブル依存症の問題をさらに深刻化させるものである。平成25年7月に実施された厚生労働省の研究班の調査によれば,国際的に使われる指標で,既にわが国の成人人口の4.8パーセントが病的ギャンブラー(ギャンブル依存症)に当たるとされ,米国の1.58パーセント,香港の1.8パーセント,韓国の0.8パーセントと比較しても著しく高い水準となっている。カジノ解禁推進法案で解禁しようとしているスロットマシンやテーブルゲームは,ゲームの速度やギャンブル頻度の多さから,ギャンブル依存症に陥る危険が高いとされており,わが国で合法とされている宝くじや競馬等の公営ギャンブルと比較しても,病的ギャンブラーの発症率が著しく高いという海外の指摘もある。
     このギャンブル依存症の問題が拡大すれば,貸金業法の改正等により収束に向かいつつある多重債務問題も再燃,拡大しかねず,病的ギャンブラーに対する手当てが不十分なわが国の現状で,さらにカジノという危険なギャンブルを解禁すれば,深刻な社会問題を引き起こすことが危惧される。
     さらに,病的ギャンブラーの増加のみならず,これに伴う家庭の崩壊や青少年の健全育成への悪影響,風俗環境の悪化やマネーロンダリングのおそれ等も懸念される。カジノ解禁推進法案では,これらの「有害な影響」を排除するため必要な処置を講ずるものとするとの条項があるが,その具体的な内容は何ら定められておらず,「有害な影響」が排除できるとする根拠も明らかでない。
  4.  第2に,カジノは暴力団の資金源となるおそれもある。
     暴力団対策法や暴力団排除条例に基づき,官民一体となった暴力団排除活動が進められた結果,暴力団の資金源が枯渇しつつあるが,このような状況にある暴力団がカジノの経営に直接または間接的に関与し,新たな資金源を得て盛り返すおそれがある。
     仮にカジノ営業を行う事業主体から暴力団を排除するための制度を整備したとしても,事業主体に対する出資や従業員の送り込み,事業主体からの委託先・下請への参入等による間接的な資金獲得活動は可能である。
  5.  第3に,同法案の目的である経済的効果についても,短期間のプラス面のみが喧伝され,マイナス面の検証がほとんど行われていない等,本当に経済的効果が得られるのかも疑わしい。
     例えば,前記のとおり,カジノはわが国に存在する宝くじや競馬等と比較しても,病的ギャンブラーの発症率が高いとの指摘がされており,このような病的ギャンブラーを多数生み出すことにより,労働意欲の減退に基づく生産性の喪失やこれに対応する社会的コストの増加など,経済に与えるマイナス面の効果に関する検証が全くと言ってよいほどなされていない。
     いったん民間事業者による賭博を許容してしまえば,仮に収益が悪化した場合,射幸心をあおる方向で売上げをあげていくしかなく,その結果,更に深刻な病的ギャンブラーを増加させ,これに対する社会的コストがかかるという悪循環を生み出すことにもなりかねない。
  6.  これらの点からすると,カジノ解禁推進法案は,賭博罪の違法性を阻却するに足りる事由があるとは言えず,かえって,カジノを解禁することにより前記の深刻な社会問題を拡大させる可能性が濃厚であって,到底容認できるものではない。
     わが国には,既に競馬,競輪,競艇,オートレース等の公営ギャンブルがあり,他の国にない遊技場としてパチンコもあるところ,まず行うべきは,これら既存のギャンブルがギャンブル依存症の発生にどのように寄与しているかの検証であり,その検証をもとにどのような規制を行い,健全化を行うかという検討である。
     既にギャンブル依存症が大きな社会問題となっている現状において,それを野放しにし,短期的な経済的な効果だけに着目し,十分な検証もないまま,最も危険性の高いカジノという民間賭博を解禁しようとすることは,まさしく拙速と言わざるを得ない。
  7.  そこで,当会は,刑法により禁止された賭博であるカジノを解禁し,推進するカジノ解禁推進法案について,強く反対するとともに,その速やかな廃案を求めるものである。
 
 
本文ここまで。