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会長声明・決議・意見書(2013年度)

「袴田事件」再審開始決定に関する会長談話

2014年03月28日更新

 本年3月27日、静岡地方裁判所は、袴田巌氏の第二次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。

当会は本決定を高く評価し、検察官に対し、即時抗告をしないよう強く求めるものである。

 

 本件は、1966年(昭和41年)6月30日未明、旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅で、一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件である。

 同年8月に逮捕された袴田氏は、当初から無実を訴えていたが、パジャマに他人の血液などが付着していたとして、酷暑の中、連日平均12時間(多い日は16時間を超える)もの厳しい取り調べを受け、犯行を自白させられた。ところが、事件から1年2ヶ月後、一審の公判中に、工場の味噌タンクの中から、広範囲にわたり血痕が付着した5点の衣類が発見された。検察官は、犯行時の着衣はパジャマではなく5点の衣類であったとして、冒頭陳述を変更し、裁判所は、5点の衣類を着用して被害者らを殺害したが、途中でパジャマに着替えて放火したとして、死刑判決を下した。1980年(昭和55年)11月19日、最高裁が袴田氏の上告を棄却し、死刑判決が確定した。袴田氏は、翌1981年(昭和56年)4月に、第一次再審請求を申し立てたが、2008年(平成20年)3月に最高裁が袴田氏の特別抗告を棄却して終了した。

 同年4月に、袴田氏の姉が請求人となり第二次再審請求を申立て、弁護団は、5点の衣類に関する味噌漬け事件報告書やDNA鑑定などを新証拠として提出し、5点の衣類が袴田氏のものでなく、犯行着衣でないことを明らかにしてきた。この第二次再審請求審においては、静岡地裁が、検察官に証拠開示を再三勧告し、それによって多くの証拠が開示されたという経緯がある。

 

 本決定は、5点の衣類のDNA型鑑定結果などから「袴田の犯人性を根拠付ける最も有力な証拠である5点の衣類が犯行着衣でも袴田のものでもないという疑いは十分合理的なものである」「弁護人が提出した,5点の衣類等のDNA鑑定に関する証拠・・・は無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する」として、再審開始を決定した。更に本決定は、「5点の衣類という最も重要な証拠が捜査機関によってねつ造された疑いが相当程度あり」とまで、踏み込んで判断している。

 

 その上で、本決定は、袴田氏の長期に亘る拘禁状態について、捜査機関の違法、不当な捜査が疑われることから、「国家機関が無実の個人を陥れ、45年以上にわたり身体を拘束し続けたことになり、刑事司法の理念からは到底耐えがたい」とまで言及し、死刑の執行停止に加え、拘置の停止も決定するという画期的判断を行った。

 

 本決定により、裁判所が、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を再審にも適用するとした最高裁の白鳥決定の流れに立ち帰った意義は大きい。しかしながら47年もの年月はあまりに長い。

 袴田氏は、現在78歳の高齢であり、長期に亘る身体拘束によって心身を病むに至っており、袴田氏の救済に一刻の猶予も許されない。

 

 当会は、検察官に対し、長年膨大な証拠を開示しないまま、真実の解明を遠ざけてきた態度に猛省を促すとともに、本決定に従い、即時抗告を行うことのないよう、そして、直ちに再審の審理開始に協力するよう、強く求めるものである。

 

2014年(平成26年)3月28日

横浜弁護士会       

会長 仁平 信哉

 
 
 
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