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会長声明・決議・意見書(2013年度)

労働法制規制緩和に強く反対する会長声明

2014年03月14日更新

第1 声明の趣旨

  1. 労働者派遣法による労働者派遣規制を大幅に緩和する2014年1月29日労働政策審議会「労働者派遣制度の改正について」(建議)及びこれに立脚した立法に強く反対するとともに,あらためて,2009年3月26日に当会が表明したような派遣労働者保護に資する労働者派遣法の抜本改正を求める。
  2. 労働契約法による有期労働契約規制を緩和する,改正研究開発力強化法に強く反対し,当該規定の速やかな廃止立法を求めるとともに,2014年2月14日労働政策審議会「有期労働契約の無期転換ルールの特例等について」(建議)及びこれに立脚する労働契約法改正に強く反対する。

 

第2 声明の理由

  1. 2009年以降の非正規労働者保護立法
     当会は,2009年3月26日「失業と貧困に対する人権保障を訴える会長声明」において,派遣労働の一時的・臨時的な専門的業務への限定,製造業派遣の禁止,日雇い派遣の禁止,登録型派遣の禁止,派遣元のマージン率の規制,派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇等を内容とする,労働者派遣法の抜本的改正を行うべきことを表明した。
     当時,雇用調整弁としての存在となっていた多くの派遣労働者や有期雇用労働者等の非正規労働者が,金融危機と未曾有の不況の下で,いわゆる非正規切りで真っ先に整理の対象とされ,住居も失い,失業と貧困の連鎖に陥っており,労働者派遣法や有期雇用法制の弊害が深刻な社会問題となっていた。
     その後,2012年3月28日,労働者派遣法が改正され,製造業派遣,登録型派遣は維持されたものの,日雇い派遣が原則として禁止され,派遣元のマージン率の公開が義務づけられ,派遣労働者について派遣先労働者との均衡を考慮した待遇を確保するよう配慮すべき義務が派遣元に課せられ,何よりも,派遣労働者の保護が法の目的となった。そして,派遣労働者保護の実効性を確保するために,派遣期間制限違反等の違法派遣の場合に,派遣先による直接雇用の申込みみなし規定が設けられた(この規定については2015年10月施行予定)。
     また,2012年8月10日,労働契約法が改正され,5年を超えて更新された有期契約(期間の定めのある労働契約)労働者の無期転換権(期間の定めのない労働契約への転換権)が定められた。
     これらの法改正は,不十分ではあるが,非正規労働者の人権保障に向けた前進であった。
     
  2. 2014年1月29日労働政策審議会建議
     ところが,違法派遣の場合の派遣先による直接雇用の申込みみなし規定の施行も待たないで,2014年1月29日,労働政策審議会は,事実上派遣労働の利用の永続化を可能とする,「労働者派遣制度の改正について」を建議した。
     労働者派遣法では,26の専門的業務以外は,同一業務について,原則1年,最長でも3年の派遣期間制限がある。
     ところが,同建議では,派遣労働契約(派遣元と派遣労働者との労働契約)に期間の定めがなければ,派遣期間制限の対象外とされている。
     また,同建議では,派遣労働契約に期間の定めがあれば,同一の派遣労働者について,派遣先の同一の「組織単位」への派遣期間制限が3年とされるが,労働者派遣契約で定める「組織単位」さえ変われば,派遣期間制限の対象外とされている。例えば,A課とB課で派遣労働者を受け入れ,3年毎に課を入れ替えれば,派遣期間制限の対象外となってしまう。一応,派遣先は,同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないとされてはいるものの,派遣労働者の意見を代弁する訳でもない派遣先事業所の過半数労働者代表から3年毎に意見を聴取しさえすれば,同一の事業所で,永久に同一の派遣労働者を受け入れることができるとされている。結局,同建議は,3年毎に人事異動を繰り返しながら,永久に同一の事業所で同一の派遣労働者を受け入れることを可能とするものなのである。
     このように,同建議は,建前では派遣先の常用労働者と派遣労働者との代替(常用代替)が生じないよう,派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とすると言いながら,その内実は,派遣期間制限を完全に骨抜きにし,派遣労働の利用の永続化,派遣先の常用代替に途を開くものであって,まさに羊頭狗肉の労働者派遣完全自由化案なのである。
     同建議の基になった2013年8月20日厚生労働省今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書では,派遣期間制限を見直すべき理由として,常用代替防止は,派遣先の常用労働者を保護する考え方であり,派遣労働者の保護や雇用の安定と必ずしも両立しない面があると言う。
     しかし,2012年改正労働者派遣法は,前述のとおり,派遣労働者の保護を法の目的として明記し,派遣労働者保護の実効性を確保するために,派遣期間制限違反等の違法派遣の場合に,派遣先による直接雇用の申込みみなし規定を設けることにより,雇用の安定を図っているのであって,この批判は該らない。
     かえって,同建議は,前述のとおり,期間の定めのある派遣労働契約であっても,3年毎に人事異動を繰り返しながら,永久に同一の事業所で同一の派遣労働者を受け入れることを可能とし,派遣労働者をいつ雇止めされるか分からない不安定な地位に固定化するものであり,事実上常用代替防止も派遣労働者の保護も放棄するものであって,断じて容認できない。
     したがって,特に2008年以降弊害が社会問題化した時点よりもさらに派遣労働者保護を蔑ろにする同建議及びこれに立脚した立法には強く反対するとともに,あらためて,2009年3月26日に当会が表明したような派遣労働者保護に資する労働者派遣法の抜本改正を求める。
     
  3. 研究開発力強化法及び2014年2月14日労働政策審議会建議
     次に,2013年12月5日,研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(改正研究開発力強化法)が成立した。
     労働契約法は,5年を超えて更新された有期契約(期間の定めのある労働契約)労働者の無期転換権を定めている。
     ところが,改正研究開発力強化法では,大学等及び研究開発法人の教員等,研究者,技術者,リサーチアドミニストレーターについて,有期労働契約を10年を超えて更新しない限り,無期転換権を発生させないとし,民間企業の研究者等であっても,大学等及び研究開発法人との共同研究に専ら従事する者についても同様とした。
     しかし,立法理由とされた,5年を超える研究事業の存在に対しては,まさに有期労働契約の無期転換で対応すれば足り,当初から5年を超える一定期間内に完了する研究事業であれば,労基法14条に基づいて,その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結すれば足りるのであって,この法律の内実は,非常に不安定な地位に置かれている大学等の有期契約労働者の非常勤講師や,大学との共同研究に従事する民間の有期契約労働者から,無期転換権を事実上奪うものである。
     その上,改正研究開発力強化法は,労働契約法の例外を定めるものであるにもかかわらず,公労使三者構成の労働政策審議会の審議すら経ない議員立法により,国会においても衆議院及び参議院の各厚生労働委員会における審議を経ないで,衆議院文部科学委員会でわずか1回2時間02分,参議院文教化学委員会でわずか1回41分の審議しかせずに成立したものであって,拙速の誹りを免れない。
     また,2014年2月14日,労働政策審議会は,有期契約労働者の無期転換権を労働者から奪う,「有期労働契約の無期転換ルールの特例等について」を建議した。
     これは,一定の期間内に完了する業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識,技術又は経験を有する有期契約労働者について,有期労働契約を10年を超えて更新しない限り,無期転換権を発生させないとし,定年後引き続いて雇用される有期契約労働者については,無期転換権を発生させないとするものである。
     しかし,一定の期間内に完了する事業に対応するためであれば,労基法14条に基づいて,当初から,その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結すれば足りるのであって,敢えて細切れな有期労働契約を反復更新する必要などない。
     そして,定年後引き続いて雇用される有期契約労働者についても,厚生年金支給開始年齢までとしたいのであれば,高年齢者雇用安定法で定年の下限とされる60歳から5年を超えることはないのであるから,定年後5年を超えて有期労働契約が更新されている場合,むしろ年齢に関わりなく労働者も使用者も労働契約を更新している状況であって,かかる場合に,敢えて有期契約労働者の無期転換権を否定しなければならない理由などない。
     したがって,有期契約労働者の無期転換権の例外を定め,2012年8月10改正労働契約法によってようやく一歩前進となった有期契約労働者の保護を後退させる,改正研究開発力強化法に強く反対し,当該規定の速やかな廃止立法を求めるとともに,2014年2月14日労働政策審議会建議及びこれに立脚する労働契約法改正に強く反対する。

 

2014年3月13日
横浜弁護士会
会長 仁平 信哉

 
 
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