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会長声明・決議・意見書(2013年度)

集団的自衛権の行使の容認等による平和憲法の改変に反対する会長声明

2013年11月14日更新

  1. 昨年12月の衆議院総選挙において自由民主党が大勝し、安倍晋三総裁が内閣総理大臣に就任して以来、安倍政権は、集団的自衛権の行使は憲法9条によって許されないとしてきた従来の政府の憲法解釈の見直しを方針とし、それに向けて様々な準備を進めている。
    なかでも、本年2月には「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を5年ぶりに再開して、集団的自衛権の行使や自衛隊の国際平和協力活動への関与のあり方の見直しを開始し、8月には従来の政府の憲法解釈を確立し維持してきた内閣法制局の長官に集団的自衛権容認論者である小松一郎氏を就任させ、また、去る10月3日には日米外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)において、集団的自衛権の行使をめぐる日本の取り組みを歓迎するとの米国の表明の下、2014年末までに日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を見直すことを合意するなどしてきている。
    また、自由民主党は昨年7月に「国家安全保障基本法案」の概要を総務会で決定しているが、これは、憲法の改正によらずに法律によって、集団的自衛権の行使容認、防衛秘密等保全措置、安全保障基本計画の策定、国際安全保障措置(国際平和協力活動)への参加等を推進しようとするものである。
  2. しかし、憲法を改正することなく、解釈によって、あるいは法律の制定によって、集団的自衛権の行使を認め、また海外での武力行使にも至りかねない道を開くことは、日本国憲法9条に違反するものであり、同条を実質的に否定して、憲法の平和主義の理念と基本原理を根本から改変するものである。
    日本国憲法は、前文において恒久平和主義と平和的生存権の基本原理を確認し、9条において、戦争及び武力の行使等を放棄するとともに(1項)、戦力の不保持と交戦権の否認を規定した(2項)。そして国際法上戦争の違法化が確立している現在においては、この2項によって「正しい戦争」も含めて一切の戦争を禁止したところにこそ、日本国憲法の世界憲政史上における画期的意義がある。しかもその9条の下で自衛隊という実力組織を保持し、自衛のための実力行使を肯定してきた政府にとって、集団的自衛権の行使と海外での武力行使が禁止されることこそが、まさに、そしてかろうじて、9条の存在意義であり、歯止めであった。
    すなわち、政府によれば、憲法9条の下においては、自衛権の発動は、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、②この攻撃を排除するため他に適当な手段がないこと、③自衛権行使の方法が必要最小限度の実力行使にとどまることが必要であるとされてきた(昭和29年4月6日衆議院内閣委員会内閣法制局長官答弁、昭和48年9月23日参議院本会議総理大臣答弁等)。そして、海外での武力行使は基本的に上記①の要件を満たさないものとされてきたし、また、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と定義される集団的自衛権の行使についても、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべき自衛権の行使の範囲を超えるもので憲法上許されない、と明確にされ(昭和56年5月29日政府答弁書)、この政府見解と憲法解釈が今日まで一貫して維持されてきたのである。
  3. このようにして長年にわたって積み上げられ、維持されてきた憲法9条の解釈は、国民の間でも定着したものとなって、憲法を頂点とした法規範の根幹を形成してきたものであり、時々の政府の政策等によって左右され、みだりに変更されてよいようなものではない。このこと自体、従来の政府答弁によって明らかにされてきたところであり、集団的自衛権を認めようとするならば憲法改正という手段をとらざるを得ないともされてきたところである(昭和58年2月22日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁等)。
    そして本来、前文と9条が規定する恒久平和主義と平和的生存権の保障は、日本国憲法の根幹をなす基本原理であり、集団的自衛権の行使及び海外での武力行使の禁止はその核心をなすものであって、時の政府や国会の判断でその解釈を変更したり、国家安全保障基本法その他の法律を制定することでこれを変更することは、到底許されるものではない。それは、憲法を最高法規と定め、これに反する法律や政府の行為等を無効とし(98条)、国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課して(99条)、政府や国会を憲法による制約の下に置こうとする立憲主義に真っ向から違反するものである。
    よって当会は、憲法の解釈変更や法律の制定によって、これまで政府の見解によっても否定されてきた集団的自衛権の行使を容認し、また海外での武力行使にも至りかねない活動を容認しようとすることは、憲法の平和主義の基本原理及び憲法9条の規定を実質的に改変し、これを根本から否定するものとして、強く反対するものである。

 

2013(平成25)年11月13日
横浜弁護士会
会長  仁平 信哉

 
 
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