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会長声明・決議・意見書(2013年度)

福島第一原発事故に係る損害賠償請求につき,消滅時効の適用を排除する立法措置を求める会長声明

2013年11月14日更新

  1. 2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災に起因する東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という)から,既に約2年8ヶ月を経過しているが,現在も,福島県民だけで約16万人もの人々が避難生活を送っており,神奈川県内への避難者数も約2500人とされる。また,神奈川県内においても,風評被害等を受けた事業者も多く,本件原発事故の被害者数は未だ計り知れない。
  2. 本件原発事故は,広範な地域の住民の生活基盤を根こそぎ破壊し,多くの被害者は,約2年8ヶ月が経過した現在においても,生活を立て直す見通しが全く立たず,従前よりも心身の状況も悪化する等,むしろ被害は拡大し続けており,被害者自身が自己の被害を的確に把握することすら困難な状態にある。
    また損害の賠償も十分に進んでおらず,東京電力によれば,本件原発事故の仮払金を受領した15万5824人の被害者のうち,本賠償の未請求者は2013(平成25)年5月末現在で計1万1214人にのぼるとされる。
  3. 不法行為の損害賠償の消滅時効・除斥期間については,民法724条が適用されると解されている。すなわち,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年で消滅時効により,また,不法行為の時から20年で除斥期間により,いずれも損害賠償請求権は消滅する。
    したがって,原発事故についてもこの原則が適用されるとするならば,事故から3年を経過した2014(平成26)年3月に損害賠償請求権は時効消滅するのではないかとの懸念が生じるのは当然であり,この点についての被害者の不安は大きい。
  4. この点につき,2013(平成25)年5月29日,「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律案」(以下「特例法」という。)が成立した。これは,原子力損害賠償紛争解決センターに和解仲介申立てを行った被害者が,和解仲介の打ち切りの通知を受けた日から1か月以内に裁判所に訴えを提起した場合に,和解仲介の申立ての時に訴えを提起したこととみなすというものであり,同センターに申立てを行った被害者(のうち和解仲介が打ち切りとなった者)のみを限定して,わずかな期間の猶予を与えるというものにすぎない。また,同センターを利用した被害者は,のべ1万5000人程度であり,しかもそのうち和解仲介が打ちきりによって終了しているのは1割以下である。したがって,特例法により救われる者は被害者全体のごく僅かに限られ,被害者救済の実効性は極めて乏しい。しかも,和解仲介手続で請求していなかった項目の損害についても時効が中断するのかなど,その射程範囲が不明確である上,そもそも,現実問題として手続打ち切りから1か月程度で提訴できるのかという点は大きな疑問である。
    「特例法」については,衆参両院で「全ての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう消滅時効・除斥期間に関して,法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」との附帯決議があり,被害者救済の観点から,新たな立法措置を講じることは急務である。
  5. 報道によれば,自民党は,東電への損害賠償請求の時効を10年に延長する民法の特例法案をまとめ今国会での成立を目指すとされている。しかしながら,法案が公表されていないため,被害者の範囲はどこまでか(避難指示区域内外の区別はあるのか,事業者は含まれるのか),時効延長が国家賠償請求にも及ぶのかなどの詳細は明らかになっておらず,また本件被害の広大さ,複雑さに鑑みれば,そもそも10年という期間を設けることも相当とはいえない。本件事故のすべての被害者が,東電及び国に対して,期間の限定なく損害賠償請求権を行使できる仕組みを作ることが切実に求められている。
  6. よって,当会は政府及び国会に対し,衆参両院の上記附帯決議に基づき,早急に,福島第一原発事故に係る損害賠償請求については,すべての被害者に対し,3年の短期消滅時効及び20年の除斥期間が適用されないとする立法措置を早急に講じることを求める。
 
以上
 
 
2013(平成25)年11月13日
横 浜 弁 護 士 会
 会  長  仁  平 信  哉
 
 
 
本文ここまで。