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会長声明・決議・意見書(2013年度)

「生活保護法の一部を改正する法律案」の国会再提出に反対する会長声明

2013年10月10日更新

第1 声明の趣旨

「生活保護法の一部を改正する法律案」は,生活保護を必要とする状態にある者による生活保護申請を受理しないことを助長するものであり,また,生活保護申請に対する萎縮効果が著しいため,国会再提出に反対するとともに,再提出された場合には,直ちに廃案とすることを求める。

 

第2 声明の理由

生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)が,本年6月4日衆議院で可決されたが,参議院で審議中に国会会期末を迎え廃案となったところ,この秋の臨時国会に再提出されることが確実視されている。


しかしながら,改正案には,以下に述べるとおり,看過できない問題がある。

 

  1. 改正案はこれまで違法とされた生活保護申請を受理しないことを助長する
    改正案は,「特別の事情があるとき」を除き,申請書を提出しなければならないとし(24条1項),生活保護の要否判定に必要な書類を添付しなければならないとしている(24条2項)。
    これに対し,現行の生活保護法(以下「現行法」という。)は,「保護は・・・申請に基いて開始するものとする。」(7条),「保護の実施機関は,保護の開始の申請があつたときは,保護の要否,種類,程度及び方法を決定し・・・なければならない。」(24条1項)と定めるだけで, 生活保護の申請について,申請書の提出による要式行為としておらず,生活保護の要否判定に必要な書類の添付も要件としていない。
    したがって,現行法下では,生活保護を必要とする状態にある者(以下「要保護者」という。)による保護利用意思が確認できるにもかかわらず,申請書や,保護の要否判定に必要な書類の提出がないとして,保護申請を受理しないことは,違法である。
    この点,政府は,先の通常国会の衆議院厚生労働委員会において,従前の運用を変更するものではないと答弁しているが,そうであれば,そもそも現行法24条を改正する立法事実を欠くはずである。
    これまで違法とされてきた,申請書や,生活保護の要否判定に必要な書類の添付がないことを理由に,生活保護申請を受理しないことを,この改正案は,「特別の事情」がないとして,許容し,合法化するものであって,断じて容認できない。
  2. 改正案は要保護者による生活保護申請に対する萎縮効果が著しい
    現行法は,民法の定める扶養義務者による扶養について,生活保護に優先して行われるものとするにとどめ(4条2項),現に扶養がなされた場合に収入認定をして,その分保護費を減額する。扶養を受けられることは生活保護の消極的要件とされていない。
    要保護者の中には,偏見や軋轢をおそれて,自己の経済的困窮状態を扶養義務者である親族にも知られたくない人が多くおり,ドメスティックバイオレンスやストーカー行為の加害者である扶養義務者たる配偶者から逃れている人もいる。
    然るに,改正案は,生活保護の実施機関が,生活保護の開始決定に先立ち扶養義務者に対して書面で通知をしなければならないとし(24条8項),扶養義務者等に対しても報告を求めることができるとし(28条2項),生活保護の実施機関による要保護者や扶養義務者の資産及び収入等についての調査先官公署等に資料の提供義務を課し(29条2項),生活保護の実施機関による調査権限を強化している。
    しかし,改正案のように調査権限を強化したところで,民法の定める扶養義務は,協議,調停,審判等の手続を経なければ具体化しない以上,実質的な意義や効果に乏しい。
    かえって,生活保護実施機関から扶養義務者への通知や報告要求に端を発する軋轢をおそれて,要保護者が生活保護申請を躊躇することは必定であり,保護申請に対する萎縮効果が著しく,断じて容認できない。
  3. 結語
    生活保護は,憲法25条が保障する生存権の根幹であり,経済的困窮者の餓死や孤独死が社会問題となっている現状においては,受給できるか否かが人の生死にも直結する。
    生活保護法改正の理由として,不正受給対策の必要性も掲げられているが,厚労省によれば,不正受給は,生活保護費全体の0.5%に過ぎず,しかも,不正受給とされるケースの大部分は,収入認定漏れである。これは,ケースワーカーの増員によって対応可能な問題であり,また対応すべき問題である。
    むしろ,2010(平成22)年4月9日付けで厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば,現行法の下ですら,生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割ないし3割程度に過ぎないと推測されているのである。
    それ故,真に必要な生活保護法の改正は,補足率を上げるためのものでなければならない。
    ところが,改正案は,これまで違法とされてきた,申請書や,生活保護の要否判定に必要な書類の添付がないことを理由に,生活保護申請を受理しないことを助長するものであり,また,生活保護申請に対する萎縮効果が著しいため,かえって補足率を低下させることは明白であり,憲法25条が保障する生存権を有名無実化しかねないものである。
    よって,改正案の国会再提出に反対するとともに,再提出された場合には,直ちに廃案とすることを求める。

 

2013年(平成25年)10月9日
横浜弁護士会
会長 仁平 信哉

 
 
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