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会長声明・決議・意見書(2013年度)

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

2013年07月12日更新

第1 声明の趣旨
神奈川県の地域別最低賃金は,横浜市,川崎市,鎌倉市,藤沢市,逗子市,大和市,三浦郡葉山町といった平均値以上の保護費を受給する生活保護者における実際の生活保護基準月額を時間給換算した額を超えるよう大幅に引き上げられるべきである。

第2 声明の理由

  1. 平成20年7月に施行された改正最低賃金法は,地域別最低賃金を定める際に考慮を要する労働者の生計費について,「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護に係る施策との整合性」を求めている(9条3項)。
    これを受けて,神奈川県の地域別最低賃金は,同年から現在まで5度にわたり引き上げられ,平成24年10月1日以降は時間給849円とされたものの,厚生労働省の試算を前提としても,なお生活保護水準の平均月額を時間給換算した金額(平成22年度データに基づく)を1時間あたり5円下回っている(これを「乖離額」という。)。
    そして,当会は,平成24年11月に生活保護基準引き下げに強く反対する意見を公表し,その不合理性を指摘していたが,誠に遺憾ながら,平成25年8月以降生活保護基準は切り下げられることがすでに予定されるところとなっており,これに伴って,前記の厚生労働省の試算の方法をそのまま用いれば,乖離額が解消するかのようにもみえる。
    しかしながら,厚生労働省の前記の試算は,乖離額を過小に計算しているのであって,神奈川県の地域別最低賃金の実態はなお生活保護水準を下回っている。
  2. まず,前記試算は,比較対象となる生活保護の金額について平均値を用いているが,保護の決定を受けている者のうちでも,横浜市,川崎市,鎌倉市,藤沢市,逗子市,大和市,三浦郡葉山町といった平均値以上の保護費を受給する生活保護者と比較すると,乖離額は拡大し,平成25年8月の切り下げ後の生活保護基準を前提としても,乖離額は解消されない。
    次に,前記試算では,1か月あたりの労働時間を173.8時間と仮定しているところ,神奈川県の毎月勤労統計調査における実労働時間のように厚生労働省が試算の前提としている労働時間を下回る時間を示す調査もある。計算をこのような実労働時間によって行えば,現実の乖離額はさらに拡大することとなる。
    加えて,生活保護受給中の者が働いて賃金を得た場合には,被服代や職場交際費等の勤労必要経費の控除が認められるところ,厚生労働省の試算では,この勤労必要経費を考慮していない。最低賃金で働く者も賃金を得るために勤労必要経費を負担しているのであるから,これを控除しないまま生活保護の金額と比較することは不合理と言わざるを得ない。
    また,厚生労働省の試算は,12~19歳の単身者を前提とした比較となっており,子どもの養育を行っている世帯では,乖離額は,さらに大幅に拡大する。
  3. のみならず,平成24年の総務省労働力調査によれば,非正規労働者が全労働者の35パーセントを占めるとされており,最低賃金は,家計補助的な労働者だけを念頭に置いてはならないことが明白になっている。フルタイムで働いたとしても,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権を具体化した生活保護水準よりも低い金額しか得られないような最低賃金の設定は,極めて不合理であり,健全な勤労意欲を削ぐものである。
    ちなみに,先進諸外国と比較しても,わが国の最低賃金は最も低い水準に位置し,相対的貧困率も高位に位置する。貧困線を下回ってしまう収入しか得られない現役世帯の中で,有業者がいる割合は82%にも及び,39%は有業者が2人以上もいる。すなわち,真面目に働いているにもかかわらず貧困に陥ってしまういわゆるワーキングプアと呼ばれる層の多さが,我が国労働者の際だった特徴となっているのである。
    一方で,我が国の生活保護受給者の総数は,戦後の混乱期を上回り216万人にも及び,過去最高の数字を更新し続けているが,そのうち約55パーセントは,非高齢者世帯である。最低賃金が,生活保護水準を大幅に上回らなくては,働くことのできる人についても,生活保護からの離脱は容易ではない。
    それ故,最低賃金の引上げは依然として緊急の課題である。
  4. 今年も,中央最低賃金審議会における最低賃金改定の論議を受け,神奈川地方最低賃金審議会において神奈川県の地域別最低賃金が定められることとなっている。
    かつて,神奈川地方最低賃金審査会は,平成20年から3年程度で,最低賃金と生活保護との乖離額を解消させるとした。
    そして,当会は,最低賃金の引き上げを求め,平成21年に会長談話を,平成22年から平成24年にかけて毎年会長声明を発した。
    しかしながら,現在もなお,前記試算を前提としても最低賃金が生活保護基準を下回る乖離が解消されていないことは,誠に遺憾である。
    改正最低賃金法は,前記のとおり,生活保護に係る施策との「整合性」を求めているが,これを生活保護基準の引き下げにより図ることは,本末転倒である。また,平均値による試算などではなく,実際の生活保護基準よりも最低賃金が高くないと,就労可能な者であっても生活保護から容易に離脱できないのであって,かかる事態を防止してこそ,生活保護に係る施策との整合性が図れるのである。
    現在,円安の進行により,電気料金,小麦粉,食用油等,光熱費や生活必需品の価格も上昇し,生活の困難さが増しており,最低賃金の引き上げは急務である。
    また,国の成長戦略にも盛り込まれたように,最低賃金の引き上げは,経済成長にも資するであろう。
    したがって,神奈川県の地域別最低賃金は,横浜市,川崎市,鎌倉市,藤沢市,逗子市,大和市,三浦郡葉山町といった平均値以上の保護費を受給する生活保護者における実際の生活保護基準月額を時間給換算した額を超えるよう大幅に引き上げられるべきである。

 

2013年(平成25年)7月11日
横浜弁護士会
会長 仁平 信哉

 
 
本文ここまで。