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会長声明・決議・意見書(2012年度)

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

2012年07月11日更新

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

 

第1 声明の趣旨

神奈川県の地域別最低賃金は、直ちに生活保護水準を大幅に上回るよう引上げられるべきである。

 

第2 声明の理由

  1. 平成20年7月に施行された改正最低賃金法は、地域別最低賃金を定める際に考慮を要する労働者の生計費について、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性」を求めている(9条3項)。神奈川県の地域別最低賃金は、同年から現在まで4度にわたり引上げられ、平成23年10月1日以降時間給836円とされた。
    しかしながら、厚生労働省の試算を前提としても、なお生活保護水準の平均月額を時間給換算した額(平成22年度)を1時間あたり18円も下回っている。
  2. しかも、厚生労働省は、乖離額を過小に試算している。
    即ち、この試算は、若年単身者における比較であり、子どもの養育を行っている世帯では、さらに拡大する。
    また、この試算では、最低賃金で1か月に労働基準法上許容される最長の所定内労働時間である173.8時間めいっぱい稼動することを前提としているが、実際には多くの職場で、年末年始の休み、ゴールデンウィーク、夏休み等には稼働時間は週40時間に満たない。現実の乖離額は、さらに拡大する。
    そして、この試算では、比較対象となる生活保護の金額については、平均値を用いているが、平均値以上を受給する生活保護者と比較すると、乖離額は、さらに拡大する。これらの点を考慮すれば、神奈川県の地域別最低賃金は、生活保護水準を大幅に下回っているのである。
    更に、生活保護受給中の者が働いて賃金を得た場合には、被服代や職場交際費等の勤労必要経費の控除が認められるが、厚生労働省は最低賃金との比較にあたっては、この勤労必要経費を考慮していない。最低賃金で働く者も賃金を得るために勤労必要経費を負担しているのであるから、これを控除しないまま生活保護の金額と比較することは不合理と言わざるを得ない。
  3. そして、非正規労働者が35パーセントを占める現在、最低賃金は、家計補助的な労働者だけを念頭に置く訳にはいかない。フルタイム働いたとしても、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権を具体化した生活保護水準よりも低い金額しか得られないような最低賃金の設定は、極めて不合理であり、健全な勤労意欲を削ぐものである。
    先進諸外国と比較しても、わが国の最低賃金は最も低い水準に位置し、相対的貧困率(可処分所得が中央値の50パーセント未満である人の割合)も高位に位置する。相対的貧困ラインを下回ってしまう現役世帯の中で、有業者がいる割合は82%にも及び、39%は、有業者が2人以上もいる。即ち、真面目に働いているにもかかわらず貧困に陥ってしまう「ワーキングプア」の多さが、我が国の際だった特徴である。
    生活保護受給者数は、戦後の混乱期を上回り、過去最高の210万人にも及んでいるが、約60パーセントは、65歳未満である。最低賃金が、生活保護水準を大幅に上回らなくては、働くことのできる人についても、生活保護からの離脱は容易ではない。
    それ故、最低賃金の引上げは依然として緊急の課題である。
  4. 今年も、中央最低賃金審議会における最低賃金改定の論議を受け、神奈川地方最低賃金審議会において神奈川県の地域別最低賃金が定められることとなっている。
    かつて、神奈川地方最低賃金審査会は、平成20年から3年程度で、最低賃金と生活保護との乖離額を解消させるとした。
    そして、当会は、最低賃金の引き上げを求め、平成21年に会長談話を、平成22年及び23年に会長声明を発した。
    しかしながら、現在もなお、最低賃金が生活保護水準を下回る乖離が解消されていないことは、誠に遺憾である。
    改正最低賃金法が求めているのは、生活保護に係る施策との「整合性」であり、決して生活保護と「同一水準」にとどまるものではない。神奈川県の地域別最低賃金は、直ちに生活保護水準との「逆転」が解消されなければならないことはもちろん、生活保護水準を大幅に超えるよう引上げられるべきである。

 

2012年(平成24年)7月11日
横浜弁護士会
会長 木村保夫

 
 
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