2012年05月17日更新
第1 意見の趣旨 東京地方裁判所民事第8部が会社更生事件において運用上採用している、旧経営陣の一部を管財人に選任する、あるいは会社更生の申立てを行った弁護士を管財人に就任させるタイプの会社更生手続は、いわゆるグレーゾーン金利で営業をしていた消費者金融業者が申し立てた場合など、更生会社において旧経営陣の責任の有無を吟味する必要がある場合には、採用するべきではない。
第2 意見の理由 1 近時、東京地方裁判所民事8部は会社更生手続において、旧経営陣の一部を管財人に選任し(いわゆるDIP型会社更生)、あるいは会社更生の申立てを行った弁護士をそのまま管財人として横滑りに就任させる方式を広く採用している。 たしかに、会社の実情をよく知る旧経営陣、あるいは会社更生手続の申立てを行った弁護士がそのまま管財業務を行うことは、手続きを円滑に進める上ではメリットがあるとされている。しかし、旧経営陣の一部を管財人に選任すれば、旧経営陣に対する責任追及が十分になされない恐れがあることは自明であろう。現に、東京地方裁判所も、いわゆるDIP型会社更生の運用基準として、①現経営陣に不正行為等の経営責任のないこと、②その他経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれるような事情が認められないこと等を運用上の要件とすることを発表している。 また、会社更生の申立てを行った弁護士がそのまま管財人になる場合、会社更生手続の中で旧経営陣に対する責任追及を適切に検討することは到底期待しえない。すなわち、会社更生の申立てを行う弁護士は、会社の破綻に至る原因を聴取・調査するにあたり、旧経営陣から信頼関係に基づく協議を受けるのが通常であり、そのような弁護士が管財人に就任し、旧経営陣に責任を追及することは、弁護士職務基本規定27条2号(信頼関係に基づくと認められる協議をした者を相手方とする事件の受任の禁止)との関係から問題がある。結局、会社更生の申立てを行った弁護士は、管財人に就任したとしても、旧経営陣に対して適切に責任追及をできない構造にあるのである。
2 とりわけ、いわゆるグレーゾーン金利を用いて営業していた大手消費者金融業者が会社更生を申し立てた際も、裁判所がDIP型会社更生を採用し、申立人代理人がそのまま管財人に就任していることは問題である。 グレーゾーン金利は、貸金業法改正前から一貫して、民事上は利息制限法第1条に違反する違法な金利である。いわゆるみなし弁済規定(旧貸金業規制法第43条)についても、司法判断においては厳格な解釈がなされていた。借主がグレーゾーン金利が違法であることに気付けば、ほとんどの場合、取引のはじめに遡って利息制限法の適用を受けて、支払わねばならない額が減少し、場合によっては過払金の返還請求も可能であった。当然、グレーゾーン金利を用いて営業を行う消費者金融業者の取締役としては、グレーゾーン金利が違法な金利であることを認識することが十分に可能であったはずである。 それにもかかわらず、貸金業法改正によりグレーゾーン金利が撤廃される直前期まで、多くの消費者金融業者ではグレーゾーン金利を用いた営業を続けてきた。結果として、過払金返還請求が増大したことにより経営難に陥った消費者金融業者が増えている。 このような消費者金融業者の取締役が、早い時期にグレーゾーン金利に依存する経営から脱却していれば、現在のような形で会社が経営難に陥ることは避けられたのであるから、グレーゾーン金利で営業をしていた消費者金融業者が会社更生を申し立てた場合には、取締役の経営責任を厳格に追及することを検討する必要がある。
3 更生会社において旧経営陣に対する責任の追及をする可能性がある場合には、円滑な手続の進行が要請される場合であっても、DIP型会社更生を含む会社更生手続によるべきではない。東京地方裁判所民事第8部は、このような問題点を看過し、グレーゾーン金利で営業をしていた消費者金融業者等においても、前述のような会社更生手続を採用しているため、上記のとおり意見を述べる次第である。
2012年(平成24年)5月9日 横浜弁護士会 会長 木村 保夫
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