2012年04月26日更新
政府は、2011年8月8日に発表された「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を受けて、「特別秘密の保護に関する法律案(仮称)」の国会提出を検討している。しかし、上記報告書を前提とする限り、以下に述べるように、その法案の内容は、国民主権を支える国民の知る権利を甚だしく侵害し、我が国の民主主義の過程を深く傷つける恐れがあるばかりか、憲法の保障する諸人権と正面から衝突しかねないものである。
1 国民に知られたくない情報を隠すことが可能になる 当該法制での保護の対象は「特別秘密」とされるものであるが、それは①国の安全、②外交、③公共の安全及び秩序の3分野の情報のうち「国の重大な利益を害するおそれがある」ものとしている。「特別秘密」とされる対象情報は極めて広範囲かつ曖昧である。特に③は、国民生活に関わるありとあらゆる情報が含まれるとする解釈の可能性をはらんでいる。 また、その情報の作成主体である行政機関自身が秘密指定をすることが想定されており、しかも秘密指定の適否をチェックする仕組みもない。 これでは国民に知られては都合の悪い情報はすべて「特別秘密」として国民に隠してしまうことすら可能になってしまう。 国民の知る権利を侵害する恐れがきわめて大きい。
2 取材活動を萎縮させる 当該法制で処罰の対象とされる行為には、特別秘密の取扱者についての故意の漏洩行為のみならず、過失の漏洩行為も含まれており、また、「犯罪行為や犯罪に至らないまでも社会通念上是認できない行為を手段」として特別秘密を取得する行為も処罰の対象とされ、さらにそれらの未遂行為、共謀行為、独立教唆行為及び扇動行為までが含まれている。上記のように「特別秘密」自体不明確であるうえ、行為についての構成要件も極めて広範かつ曖昧である。 これでは罪刑法定主義と抵触するおそれがあることはもちろん、報道機関による取材活動に対する萎縮効果は甚だしく大きなものになる。
3 プライバシーの侵害や思想信条による差別につながる 当該法制では、特別秘密を取り扱う者自体の管理を徹底するため、特別秘密を取り扱う者に適性評価を行うことを考えている。この適性評価の調査項目には、「我が国の利益を害する活動への関与」のほか、外国への渡航歴、犯罪歴、信用状態などが考えられており、さらに、対象者の配偶者等「対象者の身近にあって、その行動に影響を与えうる者」についても同様の調査を行うとしている。これは、対象者やその配偶者等のプライバシーを侵すものであり、対象者等の思想信条による差別的取扱を招くことにもなる。
4 訴訟上の問題・事後的チェックも不可能 また、当該行為で起訴された際の裁判手続において、対象となる特別秘密は、公開の法廷では明らかにできない。これが被告人の防御権を侵害することは明らかである上、訴訟手続による事後的なチェック機能すら働かない。
5 必要性もない 既に我が国には、国家公務員法等において一般的な守秘義務が定められているほか、防衛分野においては自衛隊法と日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法により秘密保全体制が確立しており、現在、それ以上の秘密保全のために新たな法制を設ける必要性もない。
当会は、上記のとおり重大な憲法上の疑義がある秘密保全法の制定には反対であり、法案が国会に提出されないよう求めるものである。
2012(平成24)年4月25日 横浜弁護士会 会 長 木 村 保 夫
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