2012年04月09日更新
本年3月29日,東京拘置所,広島拘置所,福岡拘置所において3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。2010年7月28日に2名の死刑確定者に対して死刑の執行がなされて以来1年8ヶ月の間,死刑執行がなされていなかった。この間,国民的な議論がなされないまま,死刑の執行がなされたことは誠に遺憾である。
日本弁護士連合会は,罪を犯した人も社会復帰への道が確保されるよう目指して,2011年10月7日,第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択した。この宣言を受けて,日本弁護士連合会は,本年2月24日,野田佳彦総理大臣に対し「死刑制度の廃止について社会的議論を開始することを求める要請書」を提出し,更に2月27日には,小川敏夫法務大臣に対して「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要請書」を提出して,国が死刑についての議論をリードするように求め,その間は死刑の執行を停止するように求めたところであった。
世界では,死刑制度の廃止が潮流となっており,我が国をはじめとする死刑存置国に対し,死刑の執行を停止し,あるいは死刑適用の制限を求める動きがますます強まっている。ヨーロッパでは,死刑廃止がEUの参加の条件となっており,アジアにおいてもフィリピンでは死刑が廃止され,韓国では10年以上も死刑執行が行われていない。
死刑の廃止は,世界の趨勢であり,国連機関である国際人権(自由権)規約委員会からは「世論調査の結果にかかわらず,死刑の廃止を前向きに検討し,必要に応じて,国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである」との勧告を受けている。
にもかかわらず,政府は死刑の執行を続けている。
千葉元法務大臣は,自ら死刑執行に立ち会い,東京拘置所の刑場を報道機関に公開した。更には,法務省内に「死刑のあり方に関する勉強会」も立ち上げた。しかしながら,勉強会は,法務省内に留まり,国民的な議論にならなかったばかりか,小川法務大臣はこの勉強会も終了させてしまった。
我が国では,4つの死刑確定事件(免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪判決が確定している。死刑事件ではないが,足利事件,布川事件なども再審無罪判決が確定している。2010年4月27日,最高裁判所第三小法廷は,大阪高等裁判所の死刑判決について破棄差戻しの判決をした。この差戻し審では,本年3月15日,大阪地方裁判所は,死刑求刑に対して無罪判決を言い渡した。このように刑事裁判では誤判の可能性が常にあるのである。
このようないまこそ,誤判の可能性など死刑制度が抱える問題点を様々な角度から洗い出して広く社会が問題点を共有し改革の方向性を探るべきである。
当会は,改めて政府に対し,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまで一定期間,死刑の執行を停止するよう,重ねて強く要請するものである。
2012年(平成24年)4月6日 横 浜 弁 護 士 会 会 長 木 村 保 夫
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