2012年03月08日更新
大震災からまもなく1年が経とうとしている。平成23年3月11日に発生した東日本大震災は大地震及び大津波、その後に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「原発事故」という。なお、この事故により被害を被った者を「原発事故被害者」という。)により、死者約1万6000人、行方不明者約3200人、避難者34万人超という未曽有の被害を出した。
ここに改めて亡くなられた方たちのご冥福を祈ると共に、被災された方々に心からお見舞いを申し上げる。
憲法は、個人の尊厳を基本理念とし、国民に対し、幸福追求権(第13条)や生存権(第25条)、財産権(第29条)を始めとする基本的人権を保障している。大地震及び大津波、さらに原発事故は、多くの国民の生命、健康、財産を奪った。被災者及び原発事故被害者が被った被害の回復はまさに憲法が規定した基本的人権の保障を実現することに他ならず、国(政府)はその責務を負っている。
しかし、政府による支援や復興は遅々として進んでいない。その理由としては、被災地のがれき、特に原発事故地域のがれきの処理が進んでいないこと、街の再建か、高台への集団移転かについて結論が出ないこと、原発事故による放射能汚染の除染が進んでいないこと、原発事故被害者に対する東京電力株式会社による損害賠償が進んでいないこと等が考えられる。このような状況において、被災者及び被害者の多くは、現在も、仮設住宅など仮住まいでの避難生活を余儀なくされ、職も失った者も多く、将来に対する不安を抱きながら、厳しい生活を送り、困窮している。
そこで、当会は、震災後1年が経過するにあたり、基本的人権の保障の観点から、被災者及び被害者の生活の困窮を少しでも和らげるため、次のような支援強化をするように政府に求めるものである。
1 生活給付金の支給
大震災や原発事故により、勤務先を失った被災者及び被害者は当初雇用保険の受給を受けるなどして生計を立てていたが、その期間も終わった。また義援金の分配や東京電力による賠償も進んでおらず、生活に困窮する者も生まれている。そこで、政府は、生活給付金の支給を行い、被災者及び被害者の生活の困窮状態を和らげるべきである。
2 避難生活における支援
大震災及び原発事故による避難者は34万人を超えている。避難者の中には、慣れない環境における長期の避難生活により健康状態が悪化したり、避難先において謂れのない差別を受けたり、あるいは子どもが転校先でいじめを受けたりする等の問題も生じている。このようなさらなる人権侵害が発生しないよう政府は避難生活における生活、住居、医療、教育、福祉の面での支援を行うべきである。
3 既存債務からの解放
被災者にとり、住宅ローンなどの既存債務の支払いは最大の重荷となっている。個人に対する既存債務からの開放については、私的整理ガイドラインが策定されたが、実質的に全国銀行協会が運営するため、債務者より債権者寄りの運用がなされているといった問題が指摘されている上、最終的に全債権者の同意が要件となるなどハードルが高く、また債務者への周知が徹底されていないことと相まって、十分に利用されているとはおよそ言えない(本年2月24日現在、相談件数1619件、債務整理に向けて準備中の件数が453件にとどまっている)。
そこで、私的整理ガイドラインの運用の改善を図ると共に、これを周知し、被災者が既存債務の支払いのために生活が困窮しないようすべきである。
4 原発事故被害者に対する迅速な賠償
原発事故被害については、東京電力が被害者に請求書を発送したが、その内容は、対象地域や項目、算定金額などにおいて不十分な点が多い上、煩雑な書式となっているため、賠償が進んでいない状況にある。
東京電力は、原発事故の被害が拡大し、被害者が困窮している現実を直視すべきであって、被害の実情に沿った迅速な賠償を行うべきである。特に、東京電力は資金援助を受けるにあたり政府に提出した特別事業計画において、「被害者の方々への5つのお約束」と題し、「迅速な賠償のお支払い」「きめ細やかな賠償のお支払い」「和解仲裁案の尊重」「親切な書類手続き」「誠実な御要望への対応」を約束したが、現在、この約束が実行されているとは言い難い。
政府は、東京電力の特別事業計画を認定したのであるから、東京電力に対する監督責任があり、原発事故被害者のすべての損害が迅速かつ適切に賠償されるよう、東京電力を強く指導すべきである。
以上
2012(平成24)年3月7日
横浜弁護士会会長 小島周一
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