2012年02月01日更新
本年1月26日、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)申立第1号事件について、昨年12月27日に仲介委員が示した和解案に対する回答を行った。
これによると、東京電力は財産価値の減少等に関する賠償には応じる姿勢を示したものの厳格な清算条項の設定を求め、また中間指針で示された慰謝料額の目安を上回る支払や内払いの提案(後に見直す余地を残すもの)を拒み、さらに仮払い補償金との精算は最終的に損害が確定した時点で行うべきとしたことさえも拒絶するなど、和解案の重要部分の受け入れを拒否している。
東京電力は、昨年10月28日、原子力損害賠償支援機構に資金援助の申請を行うと共に、政府に対して特別事業計画の認定を申請し、11月4日に本計画が認定された。この中で、東京電力は被害者に対する賠償が進まない原因を「被害者の方々が置かれた御立場、御心情に東電が思いを馳せることが不十分であったことにあり、『親身・親切』な賠償の基本が欠落していた」と総括し、「親身・親切な賠償のための5つのお約束」をした。その重要な柱がセンターの和解仲介案の尊重である。しかし、東京電力の今回の和解案に対する回答はこの約束を完全に反故にするもので極めて遺憾である。東京電力の態度は自ら国民に約束した「親身・親切な賠償」「紛争処理の迅速化に積極的に貢献する」ことと完全に逆行するものである。
原発被害者の多くは現在も困難な避難生活を余儀なくされており、救済が長期化すれば生活そのものが破綻の危機にさらされる。そこで裁判手続きよりも迅速な救済を可能とするセンターの和解仲介手続の充実が求められているのであり、東京電力が今回のような態度を改めないのであれば、この和解仲介手続自体を無意味にすることになりかねない。
さらには東京電力が本計画の中でした「親身・親切な賠償のための5つのお約束」は、本計画が東京電力の公的資金の援助を受けるための条件とされていることに鑑みると、その意味合いは極めて重く、東京電力がその約束を反故にすることは許されない。
神奈川県内においても、現在2500名を超える福島県からの避難者が生活をしており、県内避難者からも昨年来センターへの申立が進められ、今後もさらに増える見込みである。
横浜弁護士会は、県内避難者を含むすべての原発被害者の迅速な救済のため、東京電力に対し、前記回答を撤回し、センターの今回の和解案をすべて受諾することを求めるとともに、政府関係機関においても、被害者のすべての損害を迅速かつ適切に賠償するよう東京電力への指導、監督を徹底することを求めるものである。
2012(平成24)年2月1日
横浜弁護士会
会長 小島 周一
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