2011年09月08日更新
本年7月8日,最高検察庁検察改革推進室は,検察運営全般に関する参与会や最高検監察指導部の新設,金融証券,特殊過失,法科学,知的障がい,国際及び組織マネジメントに関する各専門委員会の設置等を骨子とする組織改革を行うことなどを発表したが,取調べの可視化については,いわゆる特捜事件や知的障がいによりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等について,可視化の試行をするとされているのみであった。 さらに,8月8日になって,法務省が「被疑者取調べの録音・録画に関する法務省勉強会取りまとめ」を作成したことを受け,法務大臣から検事総長に対し,裁判員裁判対象事件については全事件につき取調べの録音・録画の試行を行い,各取調べにおける録音・録画の範囲もこれまでより拡大させるべき旨の指示を行ったが,なお,対象事件,対象範囲が限定されているものであって,不十分といわざるを得ない。 例えば,被疑者が知的障がいにより十分なコミュニケーションをすることができない可能性がある場合,その取調べの全過程を録画・録音する必要性が高いことは当然であるが,可視化の必要性は,そのような場合に限定されるものではない。弁護人立会権も認められていない密室での取調べにおいて,被疑者は圧倒的に不利な立場におかれており,被疑者が意に反する供述を強要される等の危険性は,常に存在しているのである。 このことは,鹿児島志布志事件,氷見事件,足利事件,厚労省元局長事件,布川事件など,近時明らかになった各冤罪事件の例を見ても明らかである。 取調べにおいて,捜査機関による違法な利益誘導や供述の強要等を防止するために,それを外部から検証可能な状態に置くことの必要性は特定の事件に限定されるものではなく,取調べの過程の一部に限定されるものでもない。また,検察官による取調べに限定されるものでもなく,警察官による取調べも含めた全事件,全過程の録画・録音こそが,刑事司法を適正なものとするための最低条件であると確信するものである。 当会は,これまで再三にわたり取調べの可視化を求め続けてきたが,今日に至っても最高検,法務省から上記のような不十分な対応しか得られないことは,誠に遺憾である。ここに改めて,検察,警察を問わず,すべての捜査機関において,すべての事件につき,取調べの全過程の録画・録音を直ちに実行するよう求めるものである。
2011(平成23)年9月6日 横浜弁護士会 会長 小島 周一
このページの先頭へ