2011年06月08日更新
神奈川県の地域別最低賃金は、直ちに生活保護水準を大幅に超えるよう引上げられるべきである。
平成20年7月に施行された改正最低賃金法は、地域別最低賃金を定める際に考慮を要する労働者の生計費について、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性」を求めている(9条3項)。神奈川県の地域別最低賃金は、同年から現在まで3度にわたり引上げられ、平成22年10月21日以降時間給818円とされた。
しかしながら、なお生活保護水準の平均月額を時間給換算した額を大幅に下回っており、その乖離額は1時間あたり18円で、全国で2番目に大きい。しかも、この乖離額は、若年単身者における比較であり、子どもの養育を行っている世帯では、さらに拡大すると考えられる。
時間給818円でフルタイム(1日8時間、月22日間)働いたとしても、月額賃金は14万3,968円、年収172万7,616円にしかならない。ここから、税金及び社会保険料を差し引いた可処分所得は、生活保護水準を大幅に下回っているのである。
そして、非正規労働者が3分の1を占める現在、最低賃金は、家計補助的な労働者だけを念頭に置く訳にはいかない。フルタイム働いたとしても、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権を具体化した生活保護水準よりも低い金額しか得られないような最低賃金の設定は、極めて不合理であり、健全な勤労意欲を削ぐものである。
先進諸外国と比較しても、わが国の最低賃金は最も低い水準に位置し、相対的貧困率(可処分所得が中央値の50パーセント未満である人の割合)も高位に位置する。相対的貧困ラインを下回ってしまう現役世帯の中で、有業者がいる割合は82%にも及び、39%は、有業者が2人以上もいる。即ち、真面目に働いているにもかかわらず貧困に陥ってしまう「ワーキングプア」の多さが、我が国の際だった特徴である。
それ故、最低賃金の引上げは依然として緊急の課題である。
今年も、中央最低賃金審議会における最低賃金改定の論議を受け、神奈川地方最低賃金審議会において神奈川県の地域別最低賃金が定められることとなっている。
改正最低賃金法が求めているのは、生活保護に係る施策との「整合性」であり、決して生活保護と「同一水準」にとどまるものではない。神奈川県の地域別最低賃金は、直ちに生活保護水準との「逆転」が解消されなければならないことはもちろん、生活保護水準を大幅に超えるよう引上げられるべきである。
2011年(平成23年)6月8日
横浜弁護士会
会長 小島 周一
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