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会長声明・決議・意見書(2010年度)

取調べの可視化を求める会長声明

2010年11月12日更新

本年9月10日,大阪地方裁判所は,いわゆる郵便不正事件に関し,虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長村木厚子さんに対して,無罪判決を言い渡した。その後,同事件の大阪地検特捜部主任検事が証拠隠滅容疑で逮捕,起訴され,加えて当時の上司であった同特捜部元部長及び元副部長が,犯人隠避の容疑で逮捕,起訴されるなど,前代未聞の事態へと発展している。

上記郵便不正事件の公判では,共犯とされた証人が,公判廷において村木さんの事件への関与を否定する供述をしたところ,検察官は,捜査段階で作成した供述調書を証拠として請求し,あくまで有罪の立証を試みた。しかし,大阪地裁は,取調官の誘導があったとみられるなどとしてこれを却下した。

郵便不正事件で見られた,捜査機関が密室での取調べを通じて自己に有利な供述調書を作成し,供述者が公判廷でこれと異なる供述をすると,その供述調書を用いて半ば強引な立証を行なうとの手法は,過去のえん罪事件である足利事件(栃木県)や志布志事件(鹿児島県)と構造的に何ら変わっておらず,捜査機関において過去の反省が全く生かされていないことがあらためて浮き彫りになった。今回の一連の事件は,単に一検事の非行が原因であるなどと片付けてはならない。むしろ,違法・不当な供述調書の作成がまかり通り,それらに基づき安易に事実を認定してきた従来の刑事裁判のあり方自体に由来する重大な問題であることを忘れてはならないのである。

このように,捜査機関による密室での取調べが,えん罪を生み出す大きな要因となっていることは明らかであり,えん罪を防止するために,共犯者と目されて取調べを受けている者も含め,すべての被疑者について,その供述の状況を客観的に記録・検証するシステムとして,取調べを可視化(全過程を録画)することが不可欠である。このようにすることで,事後的に供述調書の任意性・信用性を判断するのに役立つようになるだけでなく,捜査官による違法な利益誘導・供述の強要等を防止することも可能となるのである。この点では,現在検察庁が実施している検察官の裁量による取調べの一部録音・録画では,密室における取調べの弊害を除去することはできず,かえって捜査機関側に都合の良い部分だけが証拠とされる危険性があり不当である。

また,とりわけ,裁判員裁判においては,限定された審理日程の中で,供述調書の記載内容などを手がかりにして,供述内容の信用性を判断することは現実的でない。可視化により録画された映像を元に供述の信用性を検証できるようにしておくことこそが,違法・不当な取調べを抑止し,また,適正な審理の実現に資することとなるのは言うまでもない。

よって,当会は,内閣及び国会に対して,取調べの可視化を義務付ける法律を早急に制定するよう求め,また,捜査機関に対しては,直ちに取調べの可視化を実行するよう求めるものである。


2010(平成22)年11月12日
横浜弁護士会
会長 水地 啓子

 
 
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