2009年03月12日更新
2009年3月4日、定額給付金の支給が決定した。 定額給付金給付事業の概要によれば、給付対象者は2009年2月1日(基準日)に住民基本台帳に記録されている者とされ、申請・受給者は給付対象者の属する世帯の世帯主とされている。 ところで離婚事件等においては、配偶者からの暴力等により生命身体の危険を受けて住民票の異動をせずに生活することを余儀なくされているDV被害者をはじめ、実際には別居しているが離婚問題が解決するまで住民票を異動できない事情がある者や、あるいはたまたま2009年2月1日以降に離婚が成立して住民票の異動が基準日後になった者などが存在する。 総務省及び各自治体の説明によると、上記のような場合、形式的には基準日段階での住民票上の世帯主が世帯全員分の給付金の申請・受給権があるとされているので、婚姻関係に関して問題を抱え、基準日当時の世帯主である配偶者等と対立している者は、自ら配偶者等に対して給付金の引き渡しを求めざるを得ない。 しかし、DV被害者がそのような形式上の世帯主たる配偶者に給付金の引き渡しを求めて連絡を取ることは、自らあるいは同居する子などの生命身体の危険を冒すことになり不可能である。また、そのような事案でなくとも、一般に感情的な軋轢を生じやすい離婚前後の関係のなかで配偶者等に連絡を取ることが不可能な事案や、連絡を取ることができても配偶者の感情的な対応により結果として本来受け取るべき給付金が受け取れないこととなる事案が数多く発生することが予想される。これらは、例えば離婚後の住民票や賃貸借契約書などで客観的に別居の事実を確認することで実態を把握し、本来受け取るべき住民に定額給付金を支給するなど、給付事務の運用上の工夫によって十分解決が可能な問題である。 さらに、現在の制度にはネットカフェ難民、ホームレスら本来最も生活支援を必要とする者への給付が困難であるという課題も残っている。 このような問題を放置することは、個人の人権を擁護する観点から看過できないばかりか、「景気後退下での住民の不安に対処するため、住民への生活支援を行う」という施策本来の目的を十分に達成できない結果をもたらすこととなる。 定額給付金給付事務を行う県内各自治体においては、本来受け取るべき住民が給付金を受け取ることができるよう、運用面において格段の配慮をするよう強く求めるものである。
2009年3月11日 横浜弁護士会 会長 武井 共夫
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