2008年07月14日更新
6月17日、東京拘置所において2名、大阪拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。 当会は、日本弁護士連合会の「死刑制度問題に関する提言」(2002年11月)を受けて、死刑制度の存廃について国民的な議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう、これまで再三にわたって政府に対し要請してきた。ところが、2007年12月以降の半年余りという極めて短い期間で、合計13名もの多数の死刑執行が行われており、今回の被執行者には再審請求を準備しつつあった者まで含まれていた。現法務大臣就任後、近時はほぼ2ヶ月ごとに複数の者に対する死刑執行が行われており、あたかも事実上、有無も言わさぬ機械的な死刑執行が企図されつつあるように見受けられる。当会は、かような事態に対し、深い憂慮の念を示すとともに、強く抗議する。 死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会で採択され(1991年発効)、1997年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行っている。このような状況の下で、死刑廃止国は着実に増加し、1990年当時の死刑存置国96か国、死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)に対し、2008年2月20日現在、死刑存置国62か国、死刑廃止国135か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。 また、2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された上で、死刑の執行を速やかに停止するべきことなどが勧告されており、さらに同年12月18日には、国連総会本会議において、全ての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が賛成多数で採択された。また、上記決議の採択に先立ち、同年12月7日の我が国における死刑執行に対しては、国連人権高等弁務官から強い遺憾の意が表明されるという異例の事態が生じた。 我が国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。しかし、このような誤判を生じるに至った制度上、運用上の問題点については、何ら抜本的な改善が図られておらず、誤まった死刑の危険性は依然存在する。また、死刑と無期の量刑について明確な判断基準が存在しないなかにあって、重罰化の傾向も顕著であり、全国の裁判所で死刑判決の言い渡された数は、昨年1年間で47件と、1980年以降最多となった。こうした重罰化の流れの中で、死刑確定者の数は100名を超えており、多数の死刑執行が危惧されるなか、今回の死刑執行がなされたものである。 他方、我が国においては、政府の極端な密行主義のもと、死刑に関する情報はほとんど明らかにされておらず、死刑制度に関する国民的議論を行う前提を欠く状態にある。昨年12月の死刑執行のときから、執行された死刑囚の氏名等が公表されたものの、いかなる手続き経緯で被執行者を選択したのかも判然としない。2009年5月21日から実施される裁判員裁判においては、国民から選ばれた裁判員が、死刑を含む量刑判断に参加することとなる。裁判員が、死刑制度の実情を十分に認識・理解しないまま、量刑判断に臨まなければならないとすれば、裁判員に過大な負担を課すだけでなく、適正な刑事裁判の実現も期待できない。それゆえ、まさに今日、死刑制度の運用と実態に関する正確な情報を基に、死刑制度の存廃について国民的議論を尽くすことは極めて重要である。 当会は、改めて政府に対し、死刑確定者の処遇の現状を含め死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度につき国民的議論を尽くし、制度の存廃も含め死刑制度に関する幅広い国民的合意ができるまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、重ねて強く要請するものである。
2008年7月10日 横浜弁護士会 会長 武井 共夫
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