2008年04月01日更新
2008(平成20)年3月7日、内閣は少年法「改正」法案(以下「本法案」という)を国会に提出した。本法案は、一定の範囲において犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認めるとともに、犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写の対象範囲を拡大する内容となっている。しかし、これらの法「改正」は、少年法の理念に反するおそれが大きい。 少年法は、少年が未成熟で成長発達の途上にあることから、少年の非行に対し、教育的・福祉的な対応を優先させ、少年の健全な育成をはかり、再非行を防止することを目的としている。このため、少年審判においても、少年から率直な心情等を語らせたうえで、少年に対して非行と真摯に向き合あわせ、内省を深めさせるための働きかけが行われる。一般に少年は、自身の考えを表現する能力に乏しく、とりわけ重大な非行を犯した少年の中には、被虐待経験などによる深刻な問題を内面に抱え、心を閉ざしてしまっている者も少なくない。審判においては、そのような少年の心を開かせ、その心情等を率直に語らせることが極めて重要となる。 このような特質を持つ少年審判に被害者等の傍聴を認めた場合、少年が精神的に萎縮してしまい、率直な発言ができなってしまうおそれが大きい。特に、少年審判は事件の発生から間もない時期に開かれることが多く、少年も被害者等も心理的に不安定な場合が少なくない。また、審判の開かれる審判廷は、刑事裁判の法廷とは違って非常に狭いため、傍聴する被害者等と少年が極めて接近した場所に着席せざるをえないことになる。このようなことをも考えると、被害者等による傍聴は、審判自体の教育的・福祉的機能を損ない、ひいては少年の健全な育成という理念の実現を妨げるおそれがある。 また、被害者等が閲覧・謄写できる記録の範囲を少年の身上経歴等に関する部分にまで拡大することは、少年等のプライバシーを過度に侵害し、少年の社会復帰と更生を阻害しかねない。 犯罪被害者等の「事実を知りたい」という要望に対しては、まず、2000年に導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写、被害者等からの意見聴取、審判の結果通知の各制度について、被害者等が十分に活用できる体制を整備・充実させたうえで、さらに、審判に関する事実等を家庭裁判所調査官が被害者等に対して説明する制度の導入などについて、検討を開始すべきである。 本法案による被害者等の審判傍聴や記録の閲覧謄写範囲の拡大は、上記のとおり、少年の健全な育成という少年法の理念に重大な変質をもたらすおそれがある。よって当会は、本法案に強く反対する。
2008(平成20)年3月27日 横浜弁護士会 会長 山本 一行
このページの先頭へ