2008年03月10日更新
現在法務省内の競売制度研究会で,非司法競売手続の導入を検討しており,最終段階の意見とりまとめに入っている。非司法競売手続は,競売手続を裁判所が実施せずに,民間オークション等で行うというものである。 しかしながら,非司法競売手続には,以下に述べるようにその必要性がないばかりか,手続き自体に多くの問題点があり,当会は,その導入に強く反対する。 まず第1に,現行の不動産競売制度は円滑に機能しており,非司法競売手続を導入すべき立法事実は存在しない。すなわち,現在の競売手続は,迅速的確な運用を目指し,競売妨害者を排除するための民事執行法の改正,インターネットによる競売情報提供の拡充等がなされているところである。これらの法改正や運用努力により,実際に全国平均で不動産競売事件の約4分の3は,申し立てから半年以内で売却実施処分に付されている。また,売却率は80%を超え,東京地裁及び大阪地裁ではほぼ100%に達している。かような状況の中で非司法競売手続を導入する必要性は全くない。 次に,法務省が検討している非司法競売手続案には,裁判所の関与がなく,いわゆる三点セット(現況調査報告書,評価書,物件明細書)を作成せず,売却価格の下限規制も設けないものもある。 しかし,上記三点セットは,買受人に対し重要な情報を提供する書面であり、これらがないと一般人にとっては買受けリスクが高くなり、その保護に欠けるとともに,競売に参加すること自体が著しく困難となる。その結果,一般市民は競売への参加を敬遠し,競売が閉鎖的な制度になってしまう危険性が高い。 また,下限規制を設けないとすれば,物件が不当に低額で落札され,残債務の負担を余儀なくされる債務者や保証人の利益を害することになる。仮に融資時における債務者の同意を要件としたとしても,債務者は融資を受けたいがために,金融機関に盲従することは十分に考えられ,結果的に破綻時に廉価で不動産を略奪的に競売手続に付することを可能にしてしまう。 加えて,裁判所が関与しない競売手続を設けることは暴力団・ヤミ金業者等の反社会的勢力の不当な利益獲得の場となることが懸念されるところである。さらに,昨今、貸金業法等の改正によりグレーゾーンのうまみを得られなくなった貸金業者が非司法競売手続を利用し、債務者から不当に利益を得る可能性も危惧される。 よって、非司法競売手続の導入に強く反対するものである。
平成20年3月6日 横浜弁護士会 会長 山本 一行
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